小説

『地球話打出騒動(てらがたりうちでのそうどう)』石原計成(『御伽草子』より『一寸法師』)

 西暦二〇XX年、京都のはずれで、日本の暦では室町時代初期にあたる地層から、巨大な豪邸の遺跡が発見された。信頼できる文献にまったく記述のないこの屋敷跡について、当初幕府の要人の私邸説や足利義満の知られざる別荘説など様々な憶測がなされたが、出土したとある遺物から、それが誰もが知るある人物の邸宅跡であることが判明した。
 その遺物は一見圧力鍋ほどのサイズの土くれの塊であり、発掘作業に参加していた一人の助教授がその表面に光るわずかな銀色に目をつけなければ再び長い眠りにつくはずのものであった。
 後に「人類救済の父」「○○(ありとあらゆる古の聖人の名前)の生まれ変わり」などとして人間ある限り永遠に記憶されることになるその助教授Nが塊をスキャンにかけてみたところ、様々なことが分かった。
 まずこの物体の内部には、卵型の頭に短い柄がついたマラカスのようなものが埋め込まれていた。表面に覗いていた銀色は、そのマラカスの柄の先端にあたる部分であった。そしてこの塊は厚手の鉄器であり、その中に鉄を流し込んだ厳重すぎるほど厳重な封印であることが判明した。その念の入れようと、中のマラカスが溶けた鉄の熱に耐えうる物質であることが、より一層の興味をひきたてた。早速これを叩き割ってみることにした。
 実験室を兼ねた薄暗い倉庫に道路工事のような大音響が鳴り響き、ドリルが錆の層を砕いた。実験台の上でごとりと鈍い音を立て、塊が二つに割れた。果たしてその中には、周囲の錆と対照的に青白い光沢を湛えた、まったくマラカスにしか見えない代物が収まっていたのである。
 マラカスが埋まっている片割れを観察してみると、その物体は金属光沢に似た輝きを有し、表面はつるりと青みがかってなんの模様も無い。柄の先端は滑り止めのためにか平たく広がっている。
 彼はそれを詳細にスケッチしながら、これは一体何なのか考えた。
 実用品と考えるには封印が厳重すぎる。かといって装飾品と考えるには地味すぎる。権力を象徴する品か、はたまた宗教的な意味を持つものなのか。とりあえず重要なものには違いない…。
 あれこれ考えていると、ふと「これは本当にマラカスなのではないか」という考えが頭をよぎった。

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