小説

『ユニフォーム』山本康仁(『笠地蔵』)

ツギクルバナー

 夏休みが終わると、商店街はいつもの通学路に戻っていく。学校帰りの学生たち。さっそうと駆け抜けるママチャリの群れ。レジに肘をつき、窓辺の猫のようにわたしは通りを眺めていた。
 隣り街にショッピングモールができてから商店街は閑散としていた。このスポーツ用品店も例外ではない。父の時代には、近くの学校の体操着を頼まれたり、店内には人気選手と同じモデルのシューズを探し求める学生たちで賑わっていたときもあったようだが、色褪せた野球選手のポスターが掛かる店内にその面影はもうない。店頭のかごに積まれたサッカーボールが、時の流れに追いつこうとした最後の象徴だった。
 お店を訪れるのは父と仲の良かった商店街の顔なじみ。もしくは、どこから聞きつけたのか父の集めた野球選手のカードを求めるマニアくらいだった。これが随分な「お宝」らしかった。安い物でも一万円は下らないらしい。中には相当価値のするものもあるらしく、「捨てるなよ」と繰り返していた父が、どのカードが誰のどういうもので、どれくらいの価値があり、売る際には誰に相談すれば良いか、全て記したノートを死ぬ数日前にわたしにくれた。
 そんなマニアも毎日来るわけではない。高校野球の響かなくなった店内には、残暑に抗うクーラーの音が唸るだけだった。どやどやとあの子たちがやってきたのはそんなときだった。
「こんにちは」
 小学生らしい高い元気な声を出して、日に焼けた八つの顔が入ってくる。「涼しい」と口々に言う店内は、瞬く間に賑やかになった。ひと通り店内を見渡すと、その子たちはわたしのいるレジへやってくる。
「こんにちは」
 わたしも挨拶を返した。よく見ると、みんな手にバットやグローブを持っている。五・六年生といったところだろうか。少し緊張した面持ちで、八人がレジの前に集合する。
「すいません」
 一番前の子が口を開いた。キャプテンなのだろうか。他の七人の視線がその子に集まる。
「ユニフォーム、作りたいんですけど」
 そう言ってわたしの顔をじっと見る。
「ユニフォーム、作りたいんです」
 その子が繰り返して、他の子もわたしのほうへ顔を向けた。既に何度も断られたかのように、みんなの不安そうな眼差しがわたしに注ぐ。
 

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