マックの言い分に対して、キューブリックは首を横に振る。
「申し訳ありませんが、これは決定事項です。既に上に報告し、貴方と共に行動する許可も、貴方から目を離すなという命令も下りました」
マックは頭を撫で上げ大袈裟な苦悶の声を上げる。
「やれやれ、 “固まりの女王”、 その名の通り融通の利かない奴だねぇ、まったく。証拠相手とまでは言わないがちょっとは同僚のことを信じてくれてもいいもんだ」
「 “神様よりも証拠を信じる”のが僕の仕事と仰っていましたが、それは少し違います。“証拠以外の全てを疑う”のが僕の仕事ですので。お間違いなきよう」
嫌味のような慇懃な態度で言い放つキューブリック。
「だったら一応こっちの内情も伝えておく。もっともおまえさんが言う証拠なんてものはない。十分に疑ってくれ」
マックは投げやりな態度で語りだす。
「俺がロビンを使って追いかけているのは、薬だ。もちろん非合法のな。多幸剤は知ってるな?」
マックの問いかけにキューブリックが答える。
「脳内の感覚器官を刺激して根拠のない多幸感をもたらす薬品。金持ちから最下層まで、天国まで跳ね上げる薬効の高いものから、プラシーボのほうが効果があるんじゃないかって粗悪なものまで幅広く出回ってることはこの街じゃ誰だって知っていますよ。それが街で医者が処方すれば誰でも服用できる認可の下りている薬だってことも」
マックが頷く。
「問題なのはその粗悪品のほうだ。今、街の一部でその粗悪品ってやつが妙に数を減らしている。どっかで誰かが買い占めているんじゃないかってレベルでだ」
「粗悪品なら安価で手に入るからじゃないんですか?」
「いくら粗悪品でも数が減れば値は上がる。それにも関わらずそのタイプの多幸剤が日に日に数を減らしていっている。津波が来る前の砂浜みたいにな」
「大きな波が来る予兆が?」
「あぁ、ちょうど粗悪品の多幸剤が数を減らしだしてから流行りだした薬がある。巷じゃ多不幸剤なんて呼ばれているが、その名の通り多幸剤の真逆の効果、気分を絶望のどん底に陥れるダウナー御用達の薬だ」
「多幸剤が消えて多不幸剤が増えるというのは関連性ありとみるべきでしょうね」
「それでうちの麻薬課が調査を始め、その関連性を見つけ出した。いや、関連性なんてもんじゃない。多不幸剤の成分は案の定、粗悪品タイプの多幸剤と一致。多不幸剤は多幸剤の成分配置を変えただけの異母兄弟だってことがわかった」