小説

『マルドゥック・アヴェンジェンス』上田裕介
(inspired by 小説『マルドゥック・スクランブル』)

「ええ、詳細は伏せられていますが、重力場を自らの周囲に発生させ、壁や天井を歩くことができるそうです。その能力の応用として自身の周囲に重力場を発生させ、弾丸はおろかガスの類まで弾き返すことも可能だとか」
「見えない重力の壁ってわけだ。ビンゴじゃねぇか。見えない壁相手になら弾丸を撃ち尽くすまで撃ちたくなるのもうなずける」
「ええ、そうなんですが……」
 キューブリックが資料の一部を示す。
「彼、半年前に死亡が確認されています。裁判中の事件の証人保護プログラムの証人を殺害しようとして連邦法違反まで犯していたらしいですけど、証人保護側の事件屋によって殺害、死亡が確認されています」
「委任事件捜査官が証人を殺害とはな……。能力もとんでもないが、考えることもとんでもないもんだ」
「まぁ、法廷を無効化するには証人がいなくなればいいという、ある意味わかりやすい事件の解決方法ですね」
「とはいえ、そのボイルドって奴が生きてりゃ、容疑者候補リストのトップってわけだ。そいつ以外に同じような能力を持った捜査官はいなかったのか? 軍用技術なら他にもそういった能力を持った人間がいるんじゃないか?」
「法務局はその可能性を否定しています。『“疑似重力”の能力を持つには高い適正が必要であり、その適正者はボイルド捜査官以外にはおらず、またその技術が研究所から外部へと漏えいした可能性も皆無』だそうです」
「要するに、ここで何が起こったかについては確かなことは何もわからないってわけだ」
「そうなりますね……」
 苦々しい表情のキューブリック。
 いくら筋が通っていようとも、証拠がなければあくまでも仮説にすぎない。
 絶対的な答えがでないと満足できない鑑識としての性。
「まぁ、だったらわかることから調べていくまでだな」
 入口に立っていたマックがきびすを返す。
「ちょっと、待ってください。何処へ?」
「あぁ?」
 見下すように振り返るマック。
「決まってんだろ。エド・フランクリンをしょっぴくんだよ。今確かなのは奴の銃でこの有様になったことなんだけなんだからよ」
「現状ではただの器物損壊事件です。殺人課が動く事件だとでも? これはまだ鑑識の事件なんですが?」

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