「弾丸は部屋の中央から撃たれたのではなく、射手が部屋入り口から撃ち、部屋の中央にあった何かを経由して、部屋中の壁に当たったのではないでしょうか。空の弾倉はほぼ部屋の入口付近で採取されたこととも符合します」
「射手がこの部屋の住人でないのならば蠅を撃ったよりかは信憑性のある仮説だな。その根拠は?」
「根拠は2点。ひとつは貴方が立つその後ろの壁、そしてそこから弾道が収束している場所と対角にあるその壁です」
キューブリックが言及する部分を部屋の3Dモデルで見る。
「この2方向の壁にだけ弾痕がやけに少ないのか?」
「ええ。特に貴方の後ろにある入り口側の壁には弾痕は皆無です」
「部屋の中央から入り口を背に撃った可能性もあるんじゃないのか。銃口から飛び出した弾丸は後ろへは飛ばないだろ?」
「ええ、そこで仮説とする二つ目の根拠です」
さらに画面を操作するキューブリック。表示されたのは3Dモデルではなく、写真だった。
「これは? 床の写真か?」
「ええ、弾道が収束している部分の床をとった証拠写真です」
埃が薄く積もった床を写した写真には円が描かれていた。
「部屋の中央、この写真の部分だけ半径30センチほど円を描くように床の埃が薄くなっています。つまりここには何かがあり、それに弾丸がはじかれ、壁にあたった……のではないかと」
キューブリックの仮説を頷きとともに反芻しながら脳内で租借するマック。
「仮説として筋は通ってるわな。で、そこには何があったんだ?」
「わかりません」
「は?」
素っ頓狂な声で聞き返すマック。
「わからないんですよ、発射された何十発もの弾丸を弾き返す方法が。だからこその不確定です。今チッカーで類似する過去の事件、該当しそうな軍の装備を検索していますが……今のところこの仮説を裏付けるだけの情報はヒットしていません。あぁ、いえ、ヒットするにはしたんですが……」
端末画面に出てくる法務局発行付けの事件資料。そこに書かれた人物。
「ディムズデイル・ボイルド?」
「ええ、委任事件捜査官だそうです。空挺部隊所属の元軍人。軍を除隊後の行方は一切不明でしたが、おそらくは軍の研究施設にでもいたんでしょう。“疑似重力”と呼ばれる軍用技術を用いて事件を捜査することを許可された捜査官だそうです」
「 “疑似重力”?」