「ご丁寧に空の弾倉までいくつも置いて行っていますよ。さすがに指紋までは出ませんでしたが」
「拳銃一丁で弾倉がいくつも空になるまで壁を撃ち続けていたってのか?」
「そうではないと思います。おそらく」
「 “おそらく”?」
非難を含めた声色でマックはキューブリックの言葉をオウム返しに聞き返す。
「おいおい、勘弁してくれよ、坊や。あんたら鑑識ってのは“神様よりも証拠を信じる”仕事ってもんだろ? それが“おそらく”だって?」
「少し、不確定な要素があります」
鑑識課の示す結果というものは基本的に確定した事実である。
何時、何処で、誰が、何をしたのか。
現場に残された証拠から導き出される事象を科学的に証明するのが彼ら鑑識の仕事であり、その説明に“おそらく”という前置きを必要とするということは、単純に証拠だけでは説明しきれない何かがあるということに他ならない。
「これを見て下さい」
キューブリックはチッカーのディスプレイをタップし、部屋の見取り図を3Dモデルで再現した画面を表示させる。
そこにはスキャンされた弾痕が強調されるように光点を描かれている。
「そしてこれが推定できる弾道です」
さらにキューブリックが操作をすることで、表示された弾痕の光点から赤い線が延び、弾痕から逆算される弾丸の軌跡が描かれていく。
部屋の各所に散らばった弾丸の軌跡は導かれるように収束していく。
赤い線が収束していくその先。
部屋のほぼ中央。
一点への収束ではないが、ほぼその周辺から弾丸が壁に飛んでいったことを示す光景。
「部屋のど真ん中で銃を撃ちまくったのか?」
「いったいどんな状況でそうなるんでしょう?」
「俺に聞くなよ……飛んでる蝿でも撃ち落とそうとしたんじゃないのか?」
「逆に聞かせてください。貴方は蠅が飛んでいたら銃で撃ち殺すんですか?」
「しないだろうな」
開き直るマックにキューブリックは説明を続ける。
「ここから先は仮説にはなりますが……」
さらに画面を操作すると収束した光線が更に延びていき、ちょうどマックが立っているでさらに収束をしていく。