マックの自己紹介に対して男は首を傾げた。
「殺人課が? 応援を呼んだ覚えはありませんよ」
どちらにせよ、と前置きをして男は、
「今は現場検証中です、終わるまでは殺人課であろうと市長であろうと家主であろうとここに入ることはできませんよ」
「だろうな。ここにきたのは……まぁ、ここの住人に用があったんだが……どうやら留守のようだな?」
一目瞭然の状況を茶化すようにマックが肩をすくめる。
「で、あんたは? 現場検証ってことは鑑識か?」
「ええ。キュービック・クィーン。おっしゃる通りに鑑識課です」
「で、ここで何が起きたってんだ?」
「それを調べているところです」
「まぁ随分と派手なパーティが開かれたみたいだな」
マックはぐるりと部屋を見渡す。
「ここの住人……ええと、ロビン・ファブリックと知り合いで?」
キュービックは事前に目を通した、この部屋の住人の資料を思い出す。
ロビン・ファブリック。
肩書きは「ヤクの運び屋」。
違法な薬物を右から左へと流して利益を得る薬物流通の末端。
殺人課の刑事がそんな男に用事があるということ、不穏なものを感じつつ探りを入れる。
そんなキューブリックの疑念を感じ取ってか、マックは苦笑いを浮かべる。
「あぁ、“おしゃべりロビン”は俺の情報屋の一人でな。あいつが運んでるヤクの仕事に目をつむる代わりに情報を寄越させているってわけだ。で、今、追っかけてる事件の情報をちょいと“おしゃべりロビン”に吐いてもらおうかと思ったんだがね。しっかし、ウチの方には特に連絡は入ってなかったが殺しじゃないのか?」
「ええ、このアパートの住人から無数の銃声があったと通報があり、それを受けて現場にパトロールの警官が現着したときにはもう部屋はこの状況。で、こうして鑑識が入ったという訳です」
「なるほどね……これは全部ロビンの奴がやったのか?」
マックは壁に空いた無数の弾痕を指さす。
「いえ、どうやらそうではないようです。チッカー、来てくれ」
『サー、マスター』
軽く手招きをするキューブリックに、壁際で佇んでいた筒状のポッドが電子的な音声で応答し、モーター音と共に四足の車輪を転がしてキューブリックの元へと近づいてくる。