『フレーミング』の曲は、結局一番有名なのを1曲。あとは高校の頃やり込んだジッタリンジンを3曲。意外とお客さんは集まり、開催の挨拶をした田村くんは司会というよりもMCのお兄さんのノリで会場を盛り上げた。ユウナは、どこまでも自由に音の波の中で泳いでいた。度々私とベッチンの音が転ぶこともあった。でもそんなことが全く気にならないくらい、私たちは没頭していた。
ユウナが東京に戻って、一週間が経った。
私は相変わらずの旅館業務に追われ、もちろんスティックを握ることもない。あの日思い切り叩きすぎて、血豆ができてしまい水仕事が大変だったが。
夢のようなあの時間はもう帰ってこない。高校時代に戻れないのと一緒だ。ユウナとも、連絡先を交換したわけではない。私が知ってるのは名刺に乗ってる高岡さんの連絡先だけだ。
「茜さん」
あれから何も日常に変化はないが、唯一あるとしたら田村くんがやたら懐いてくるぐらい。嫌な気はしないけど、今日も次の企画の打ち合わせだとか称して、うちの休憩室でお茶を飲んでる。
「ユウナさん、ソロ名義で活動するみたいですね」
窓の外は青く澄んだ秋晴れ。鳥のさえずりが響く。
この町はずっと変わらない。ここはあなたを育てた町。送り出した町。ソロ名義だろうとなんだろうと、音楽をやっていても、やめてしまっても。何をしていてもあなたは孤独じゃない。
ずっと、繋がってる。