おじさんが俺を見てそう言った。
「ビール?」
「はい。それと豚足」
やはり10秒後に二つとも運ばれて来て、俺は食らいついた。
もう腹は膨れ上がり、酔いも回って、何もかもがどうでも良くなった。厭世的にどうでも良いのではなくて、前向きな『どうでも良い』である。
支払いを済ませ、ホテルに向かって難波の街を歩く。
道頓堀川にかかる有名な橋やネオンを見た。
男、女、子供、老人、外国人、カップル、大学生の集団、女装の人、俯いて歩く人、酔っ払い、おばちゃん、おっちゃん……たくさんの人がいる。
そして、豚の脂で口の周りを鈍く光らせた俺がいる。
それで良い気がした。
ホテルに戻り、フロントで預けていた鍵を受け取った。
「美味しいものでも召し上がりましたか?」
ホテルマンが俺に尋ねてきた。
「分かりますか?」
「はい。ご満足そうなお顔をしていらっしゃいます」
エレベーターの扉が開き、正面の鏡が俺の姿を映した。
満足そうな顔をしていた。