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『Shoot the moon』木南涼太

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「やっばいい大学行くの? 第一志望は?」
「国立大の薬学部だけど」不躾な質問に多少の憤りを感じながらも、わたしは答えた。
「薬学部か」
「母が会社で薬の研究をしてるの。資格とか持ってると色々有利だし、将来わたしが同じ研究するのを望んでるみたい。本当は本が好きだから文学部とかも興味あったんだけどね」
 自分のことを人に話すのは久しぶりだ。学校での会話なら話さないことを口走ったのは、単に岡本がどうでもいい存在だったからだろう。
「お前の家も割と面倒なんだな。普段お高く止まってるから、もっと育ちのいい家なのかと思ってたよ」
「あんた、そうゆう物言いだから嫌われるのよ」
「別に学校の奴らにどう思われたっていい」岡本はわたしの皮肉もまるで気に留めない様子だった。
「あんたは大学とか行く気あんの?」
「ない。大学なんか暇人の溜まり場だろ」
「それは同感だけど、じゃあどうするわけ」
「専門学校に行って写真の勉強をする」
「ふーん……」
「うちの親も反対してるけど、僕はバイトして金貯めてでも行くんだ」
 思っていたより岡本が将来について具体的なビジョンを描いていたことに、わたしは少し面食らった。母親の期待に応えることだけに日常を費やしている自分が、なんだか急に恥ずかしく思えた。
「僕が毎日ここに来てる理由、教えてやろうか」
「さっき教えないって言ったじゃん」
「さっきはお前のこと知らなかった」
「今だって同じよ。でも、まぁ言いたいなら聞いてあげる」
「ほら」そう言うと岡本は腰に巻いたポーチから数枚の写真を取り出した。そこには真っ暗な中にポツンとオレンジの点が光っている。全部で5枚あった写真は、どれも同じような構図で撮られた同じような写真だった。
「なにこれ」
「月だよ、月。見りゃわかるだろ」
「わかるけど、なんで月なんか撮ってんの」
「なんでって……好きだから」
「それだけ?」
「うん……まぁ、あとはあれだな。去年の英語の教科書に『Shoot the moon』て言葉が載ってたんだ」
「そうだっけ」
「『月を撮る』つまり『不可能なことを達成する』って意味の慣用句らしいんだけど……。月って写真に撮るのがすごく難しくてさ。雲のかかり方とか空気の澄み具合よって輝き方が変わるし、そもそも形も色も日々変わっていくものだから、理想通りの月が撮れるのってものすごい幸運と写真の腕が必要なんだ。だから僕は、いつか最高に美しい月を収める為に、この高台公園で毎日写真を撮ることにしてる」岡本は暗闇でもわかるくらい目を輝かせて言った。
「それで毎日ここに? え、馬鹿みたい」
「馬鹿じゃねーよ」

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