でも、あの人たちは一度だって生々しく蠢くわたしの内面に触れたことはないし、わたしも彼女たちの奥深くまで入り込みたいと思ったことは一度もなかった。それでいい。わたしの高校生活もあと数ヶ月で終わるのだから。
住宅街を抜けると街で一番大きな公園がある。高台公園と呼ばれる自然豊かな公園内は坂道や階段が多いので、普段は中を通って帰ることはない。しかし、今日は無性に母の待つ家に帰りたくなくて、気づけば赤や黄色に色付き始めた木の葉の下に向かって歩き出していた。
公園内を少し歩くと辺り一帯が明るくなって、オレンジに染まった野球場が広がる。社会人の草野球だろうか、そこでは大人たちが少年に戻ったように泥にまみれていた。大人になっても球遊びがしたいだなんてわたしには理解できないなと思いながら、ボールを打つ金属音を遠くに聞いていた。。
球場の裏手には長い階段がそびえている。自転車を押しながら必死に階段を登り切ると、そこは滑り台やブランコなどの遊具が並ぶ小さな広場になっていた。
広場からは街の夜景が一望でき、さっき横切ったナイター場と住宅街の灯りが煌びやかに浮かび上がっている。しばらく街の灯りを眺めていると、後ろからガサガサと物音が聞こえた。振り返って見ると、滑り台の傾斜に身を起こしている人影があった。
「佐々木か?」
こちらに声をかけてくるその姿には見覚えがあった。わたしと同じ学校の制服、雑に切り揃えられた坊主頭、妙に縁のぶ厚いメガネ。
同じクラスの岡本良太だった。
「岡本? ビックリさせないでよ。ここでなにしてんの」
「そっちこそ」
「わたしは予備校の帰りだから」
「嘘つけ。僕は毎日ここに来ているけど、会うのは初めてだろ」
「なんとなく今日は違う道から帰ろうと思っただけよ。それよりなんで毎日ここにいるわけ?」
「……写真を撮ってる」確かに岡本の首元からはカメラがぶら下がっていた。
「公園で、こんな時間に?」
「何をしようが僕の勝手だ」
岡本は学校でも異質な存在だった。口数が少ない割に妙なところで主張が強い。相手にするのが面倒になったクラスメイトは、いつしか彼を存在しない透明人間のように扱うようになった。
「通ってるのって駅前の予備校だろ」
「そうだけど」