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『春田高校には停まりません』角田絵里

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あぁ、やっぱり…。間違えた…。
鞠子の通う高校は霧幌駅行きのバスで間違いないのだが、いつものバスより10分遅れで米沢経由行きのバスがあるのだ。
米沢経由バスは国道を逸れて一般道を走り、また国道へと合流し、霧幌駅に到着する。鞠子の通う春田高校には停まらない。1時間に1本、米沢経由のバスがあるのだ。

鞠子は素直に間違えましたと言う勇気もなく、とっさに降りる勇気もなく、高鳴る鼓動と裏腹に静かな顔でバスに揺られていた。
なんの見栄だがわからないが、あたかも最初からそこで降りるつもりでしたという顔をして、終点より2つ前のバス停で鞠子は降りた。
サングラスをかけた運転手さんがまじまじとこちらを見たので一瞬どきりとしたが、定期を見せずに260円を運賃箱に入れ、バスを降りた。じゃらじゃらと硬貨が落ちる音を背後に聞きながら、バスが通り過ぎるまでなんの迷いもなく左へ向かって歩き出した。
あたかも私はこちらに用があったのですよ、というような素振りをして。
歩き続けると、小さな公園が見えた。お年寄りが杖をついて散歩をしたり、運動器具で腰を伸ばしたりしていた。一人のおじいさんがちらりとこちらに目をやって、ゆっくりと戻す。
いつもはいない場所に制服姿で佇む私は、まるで外国に来た日本人みたいだった。
鞠子はとぼとぼと歩きながらベンチに座って時計を見た。
時間は8時50分。遅刻だよな。遅刻だなぁ。
携帯を見ると、よりによって携帯の充電も残りわずか。
「今日の12位はごめんなさい。うお座のあなたです」朝聞いたアナウンサーの声が壊れたレコードのように繰り返し頭の中で流れていた。アナウンサーの声は朝よりなんだか申し訳なさそうに響いていた。
汗で制服が背中にくっつく。鞠子はとりあえず、制服で歩き回るのは怪しまれると思い、公園のトイレで持っていたジャージに着替えた。いつも紺と白のさえないジャージだと思っていたが、鞄の中で見つけたそれは、おしゃれ着のように輝いて見えた。
制服をたたんで鞄にしまい、トイレを出ると「おい、あんた」と低い声が聞こえた。
振り向くと体つきのごつい、白髪交じりの切れ長の目のおじさんが立っていた。
おじさんはにこりともせず、睨みもせず、じっとこちらを見ている。
驚いて声を出せずにいると、「あんた、金はあんのか」と聞かれた。

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