「蒼太はなんて言ったの?」
「しばらく黙っていたけど、『ありがとう』って言った。そして、『やっぱり、島に戻ってきて良かった』って笑った」
予想外の蒼太の反応だった。
「俺、そんな反応すると思わなかった……」
雅樹にとっても予想外だったようだった。
自分と由美が嘘をついたから、雅樹は1人で悩んでしまったのかもしれない……。雅樹に申し訳ないと思った。
「ごめん、伯母さん……」
「バカ! 何、謝ってんの。私たちが嘘をついたの。こっちこそごめんね。1人で悩ませて……」
自分が謝らないといけないのに雅樹を謝らせてしまい、なんだか泣きそうになって、怒ったふりをして謝った。
「伯父さんのことも、ごめん……」
「ほんと、バカ! あんたのせいじゃない」
雅樹が薄っすら微笑む。ふっー、と息を吐くと智子は続けた。
「確かに、あの日、真一さんは雅樹を見に行ったのかもしれない。でも、真一さんが嵐の中、守りたかったのは、雅樹だけじゃない。雅樹もコロも蒼太も姉さんも私もみんななのよ。だから、あなたのせいでは決してない」
自分で言いながら、智子はやっとわかった。智子の心に小骨のように引っかかっていたもの。20年前に失くしたと思っていたもの。
何も失くしていなかったじゃない――。
蒼太もそれに気付いたのだ。だから、雅樹にあんな事を言って、マラソンに戻った……。
真一が残してくれた沢山のものと共に生きている。もう一度、蒼太の写真を見る。真一に似てきた、と思う。
(真一さん、いつもそこにいたんだね)
写真を見ながら、一呼吸、一呼吸するごとに、心がボニンブルーの海のように青く澄んでいった。
本当に真一は海亀になって戻ってきたのかもしれない。海亀が大海に旅立ち、そして戻って来るように――。
「雅樹、ありがとう」
言い忘れていた言葉を雅樹に伝えた。
部屋に飾ってある大好きな写真に目を移す。
写真の中で、幼い雅樹と蒼太がコロを抱きしめ笑っていた。