しかしもちろん、そんなことはできない。それにもしそうしたところで、きっと彼らはなにも言ってはこないだろう。このように考えた時点で、私はこれから何をするべきかに気がついているのだ。
そうじゃないだろうか? 自分を剥き出しにして語ることのできる相手なんて、現実にはほとんどいない。限定されたつながりの上でしか、人は生きていくことができないのだ。しかし私は、それでもなお、ものごとを語り切ってしまうことを切実なまでに望んでいた。
丘を下りきったところで、私はまた頭上を見上げた。先入観を含めないようにして見てみれば、私が先ほどまでいたあの白い家は、私にとっては身分不相応のとても高い位置にあった。そして私の立っているところは、住宅街があり、海があり、さまざまな土地につながる駅のある高さだった。駅からは、私の仕事場付近に行くこともできるし、私の本来の家がある土地に出ることもできた。電車に乗り、見知った駅で下りて、歩き慣れたルートを辿れば、いつだってその場所に戻ることができるはずだ。
つながりを結ぶものはもう一つあった。私はポケットに入っているスマートフォンを取り出して、通話履歴を開く。目的の番号は、哀しくなるほど下までスクロールしないと見つからない。しかしどんなに素早く操作しようとも、その名前表記と番号表示を見逃すことはない。
私はその番号をタップする。私は着信音を耳にしながら、まずは何を話すべきかを考える。思考はなかなか定まらない。なにを言っても間違いだという気がするが、反面、心に描くものをそのまま伝えることが唯一の正解だということもわかっている。それを描ききるために、なにをどう語ればいいのか? まだ私にはわからない。しかし、成し遂げなければならないんだと、気持ちはもう定まっている。
ただ一つ、はっきりと言えることがある。
次に海に出て、彼らと顔を合わせるときは、私の大切な人を紹介することができるだろう。