仲睦まじいカップルが手を繋ぎ、店を出て行く姿が見える。
「ほんの僅かな時間でしたが、僕は自分の悩みがスッと消えた気がします。おじさんと話をしたおかげで」
「いや、私なんか何の役にも立ってないですよ」
「そんなことないです。僕の短い人生で、ちょっとした仕事の悩みなんて取るに足らないことだと感じましたよ、なんか、勇気が出ました」
彼の言葉はお世辞かもしれない。いや、私への慰めかもしれない。しかし、多少なりともこんな私が誰かの役に立てたという喜びを感じたのは事実だ。
「きっと、明日は良い日になります。いえ、無責任な言い方かもですが、どんな結果になろうと価値のある行動だと思います」
私は珈琲を口に含んだ。まろやかな苦みが口中に広がった。
彼の言う通りだ。やらなかった後悔は大きい。結果はどうであれ私は自分の思いを和幸に伝えなければならない。
私はこの僅かな時間の出会いに心から感謝した。
「ありがとう」
「どういたしまして。こちらこそありがとうございます」
僕は最後のカップに残った珈琲を飲み干した。明日からいつもの日常が待っているが、僕には何も臆することなどなかった。