バーテンダーがするりと近付いて、俺に問い掛ける。息の詰まった喉が緩んで、ふっと力が抜けた。
「じゃあ、同じものを」
かしこまりました、と軽く微笑んでバーテンダーは手を動かし始める。
「どうして」
ユリが呟いた。ボルドーを施した指先で、俺のクマを突いている。カンパリソーダの残りはあと少し。
「どうして、目印がクマのぬいぐるみだったんですか」
ユリの瞳にキャンドルの灯りが映って輝く。バーテンダーが、ハイボールをステアする。氷の音が聞こえる。
「ああ、それはね」
そう言いながら、クマのぬいぐるみを手に取った。
「コスタリカって知ってる?」
ユリの目が大きく開かれた。ハイボールを持ってきたバーテンダーが「お待たせしました」と言って動きを止める。
そりゃそうだ。これは俺のとっておきなんだから。
ユリはグラスを手にすると、カンパリソーダを飲み干した。彼女に流れ込んでいく赤。
「私にもおかわりを」
そう言って、ユリは笑った。
「最後まで聞かせてもらいますから。あなたの話」
「よければ、私にも聞かせてほしいですね」
バーテンダーも笑いながらそう言った。
見ず知らずが集う場所で、見ず知らずが語り合う夜。
今夜は長くなりそうだ。