マッチングアプリなるものに手を出したのは、同僚の岡島のせいだった。
「奈良、人間ってのはいつまでも一人じゃ生きていけないんだぞ。俺を見ろ。充実してるだろ? やっぱり男ってのは、好きな女くらい幸せにできないと一人前と言えないもんな」
最近あいつに恋人ができたせいで、俺は休憩中イライラしっぱなしだ。
三十一歳、男、会社、仕事内容、身長も体重もそれほど変わらないっていうのに、恋人がいるかいないかだけで「人間とは」とか「男とは」というスケールの話で見下されなくてはいけないのか。
放っておいたら一生続きそうな自慢話——いや、ノロケ話を打ち切るためだけに、俺はくだらない嘘をついた。
「俺だって、恋人じゃないけど、たまに会う女くらいいるよ」
そのとき岡島が浮かべた、にやぁっという嫌な笑みと、まるで慰めるみたいに叩かれた肩の感触が今も残っている。
きっと嘘をついたからだ。だったら本当にしてしまえばいい。
その夜、アパートに帰ると、検索して最初に目についたマッチングアプリをダウンロードした。
以前なら出会い系と呼ばれるものだ。やっていることは同じなのに、それがカタカナになるとどこかライトで、あまつさえおしゃれな感じさえしてしまう。
多少フェイクを入れて自分のプロフィールを入力する。するとすぐに何通かメールが届いた。
『エッチで欲求不満な人妻です。会いませんか?』
『ひまー。だれか遊んでー。お礼に……しちゃうかも?』
下心満載の(俺もそうなんだけど)文面にちょっと引いてしまう。そもそもこんなに早くメッセージが来るなんて怪しい。怪しすぎる。この手のサイトには往々にしてサクラがいると聞いたことがある。きっとこれもその類いなんだろう。
そんな薄っぺらくて熱烈な文章は、俺の頭を徐々に冷やしていく。何やってんだか。こんな欲にまみれたような場所で見つけられるつながりなんて、どうせ一瞬だけのものだ。
とはいえ、せっかく登録したんだし、どんな奴らがいるのか検索してみようと思った。もしかしたら知っている奴がいたりして、なんて。
女性、年齢は二十代から三十代、会社の最寄り駅から半径十キロで検索を掛けた。オフィス街なので、ヒット件数は少なめの七十二件だった。
真っ白な顔に宇宙人みたいに大きな目をした女や、犬の鼻やヒゲでコラージュされた女の写真と「会いましょう」「エッチしたい」「寂しいです」なんて甘い言葉がずらりと並ぶ。
「うそくさ」
呟きながら画面をスクロールしていく。目を止めたのは六十八件目だった。
ユリ、二十八歳。プロフィール画像は設定されておらず、こけしみたいなピンク色のアイコンのままで、ごてごてと飾り立てられた写真たちの中で逆に目立っていた。
『三日間だけ、会ってくれる方。恋愛や肉体関係じゃなく、ただ会って話を聞いてくれる方がいいです』
ハッカのキャンディーみたいだった。欲望が渦巻いているこの場所で見たこの言葉の列は、俺の胸をスッとさせた。それと同時に興味が湧いた。