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『オレンジジュースの悲劇』安藤愛美

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「何でだよ」
 顔を見合せながらお互いに笑いあう。そう言えば2日前はこんな風には笑えなかった気がするのに不思議だ。
「……旅館で、色々話せて嬉しかったです。あ、あと二度目の悲劇は起こしませんでした」
「当たり前でしょ」
 さぞかしおかしそうに、航太は笑った。
「俺も、すごく楽しかったです。今度は都会のホテルにでも泊まろうかなぁ。二泊三日で」
 くすっとふみこは笑った。
「都会のホテルで二泊三日って……相当リッチじゃないですか。お洒落なホテルでも見つけたんですか?」
「あぁ、Wao!ホテルって知ってます?」
「ワオホテル……?」
「こないだ営業先の人と飲んだとき、おすすめされて。なんか面白いらしいんですよ。お洒落な感じだし、俺も行きたいなって思ってて」
「へぇ……調べてみようかな」
「ぜひ。……でも都会のギラギラした中じゃ休まらないんじゃない?」
「……そう、思ってたんでわざわざ遠出したんですけどね。でもなんか、案外悪くないかもしれないですね。そのギラギラを眺めながら夜を過ごすのも」
 航太は優しく笑った。
「その時はぜひまたお会いしたいですね」
「そうですね。……でもそれってもうミラクルですけどね」
「え、でも既にミラクルじゃないですか。今日会ったことが」
「たしかに。あ、雨降ってきた」
 ぽつ、ぽつ、と小さな滴がハンドバッグを持つふみこの手の甲を濡らすと、次第にその間隔は早まる。航太もふみこも慌ててバッグから折り畳み傘を引っ張り出すと、勢いよく開いた。
「……急に降ってきましたね」
「ね。予報では午後って言ってたのに」
 ふみこは濡れた腕時計を見ながら、だいぶ時間を費やしてしまったことに気づいた。
「すみません、朝の忙しい時に」
「いやいや、声かけたの俺からだし」
 できることならもう少し話していたいと心の中で願いながら、ふみこは現実に気持ちを切り替えた。
「……じゃあ、そろそろ行きます」
「ですね。俺も」
 一瞬の沈黙が二人の間を流れる。
「……じゃあ」
「……じゃあ、また」

 
 次々に傘を開く人たちで次第に街は溢れ、ふみこはその中に溶け込むように交差点で信号を待つ。青になると一斉に渡り始め、ふみこもそれに続く。いつもとは違う交差点を歩きながら、ふみこはぐるりと辺りを見渡してみる。色とりどりの傘がこの街を埋め尽くすこの光景がまるで今の自分の心模様のように思えて、深くさした傘の中でふみこはそっと微笑んだ。

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