それに何やら机にはウェルカムフルーツなのだろうか、リンゴやバナナなどが置いてあった。フルーツを見ると途端にお腹が空いた。時刻を見れば確かに晩ご飯にしても遅い時間帯となっていた。ひとまず荷物を置き、晩ご飯だ。
――近場で晩を済ませてホテルに戻り、エレベーターに向かう途中、後ろから声をかけられた。
「あの、あなたは昼頃の……」
振り返ると、部屋を譲ったあの親子連れがいた。
「あ!」
「どうなさったんですか、こんなところで、部屋はもう満室だったんじゃないんですか……?」
「実は……」
立ち話もなんだということで近くのソファに座り今日あれから起こった出来事を話していた。
そうして談笑していると、
「おや、君はあの時の……」
なんと、バーで出会ったあの紳士も現れた。確かにロビーで喋っていれば通りすがりに気づくだろう。
親子連れと紳士もお互い察してか、見ず知らずであるにも関わらずまるで見知った仲であるように紳士も会話に混じり始めた。
「ごめんね、真奈美ちゃん、この人にぬいぐるみ譲っちゃった」
「いいよー、おじちゃんが喜ぶならそれでー。お兄ちゃんもここに泊まれて幸せだもんね」
「うん、幸せさ、ありがとうね」
「私からも礼を言うよ、ありがとう」
見ず知らずのはずなのに、こうして話ができるとは、面白い縁だ。
「面白そうな話してるじゃないか」
おや、懐中時計コレクターもやってきた。
「この人が例の一宿の恩義をくださった方ね」
「あら、そんなことまで知られてたか。そしてそれは大げさじゃないか」
笑いながらも、照れくさそうなコレクターだった。
「えへへ、つい話を盛ってしまいまして」
今日たまたま関わっただけの人たちがこうやってつながりを持った。不思議なものだ。ホテルの名前の縁はまさにこのことを象徴しているようだ。
親子連れと紳士、コレクターと僕はこの縁あって、連絡を取り合う仲になった。あれから数年経った今でも、お互いの近況報告をちょくちょく取り合っている。おじいさんとは結局あれきりであったが、きっとどこかでまた縁があるような気がする。
やはり、旅はいいものだ。非日常との出会いは大いに刺激になる。今回は特に、縁で結ばれた出会いを経験することができた。おそらくこれからもずーっと続く、本物の縁で。