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『ファンタスティック逃避行』山科晃一

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 ウサギ男はこなれた口調で言った。好きそうとはよく言えたものだなという不信感を通り越して私の関心はひとりでに歩き始めた。待てよ。と、沈黙した後、うん。どうせ家にいても会社の思念に纏わりつかれるだけで、この逃避行の行く先としては適当であるし、

 
 一泊二日で二万円なら、まあ次の仕事を探すまでの大きな痛手とはならないと平静を繕った。
「興味あります」
「やっぱり。今なら、スマフォ決済で、この場ですぐ応募できますが」
「します」
「ありがとうございます!」
「こちらこそ」
 と不要な返事までしてしまい、スマフォスマフォ……っと、あ、ああそうだ……、リュックの中……遮断していた会社との関係を、大量の不在着信とともに再発見するのは嫌だな、と固まっていると、
「どうしました?」
「いや、あの、スマフォ今、持ってなくて。ごめんなさい」
「じゃあ」
 とウサギ男が取り出したのは画面にひびが入った大きなタブレットとタッチペンであった。
「ここにお名前、ご年齢、ご住所と諸々、あとお支払い方法だけ書いてもらっていいすか」
「あ……はい」
 ウサギ男の視線を気にしながら記入を始めた。画面の亀裂のせいでうまくタッチできず、氏名の欄に坂下良、とまで書いて、子が書けなくなってまごついた。
「コツあるんすよ。僕書きましょうか」
「えっいや」
 ウサギ男は躊躇なく私からタブレットを取り上げる。
「昨日落としちゃってねえ。弁償かもしんないっす。坂下……なんでしたっけ?」
「良子、ですけど。良い悪いの良に、子供の子です」
「良子っと、ご年齢は?」
「24 です。あの、自分でやります」
 とタブレットを取り返そうとする私に、ウサギ男は
「僕、22 なんすよ。近いっすね」
 とタブレットを渡しつつ、初対面の人間の個人情報について話すなんてデリカシーの欠片もない。
「僕も参加予定なんです。実は。一緒に行きません? 勿論、部屋は別々ですけど」
「ナンパじゃん。駄目でしょ。バイトがこんなことしちゃあ」
 いつの間にか錯乱状態から抜け出していた私は『普通に』怒った。
「まあ。でも、お得っすよ。俺、ホテルのこと詳しいっすから、余りなく楽しめると思います」
「やだよ。あーもう全然反応しない。めんどくさい。もうやって」
 会社で真面目に業務を遂行していた私は、この男の不良さに緩和されるのも自分を取り戻す一つの策だと投げやりになって、結局残りの記入欄もウサギ男に託した。辺りはすっかり暗くなっており、私の住んでいるアパートもポツリポツリと電気が付き始めていた。

 

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