「そうですか」
海なし県で育った六田は、海には数えるほどしか行ったことがない。
「なあ。あの、部屋で会話するってのはきっと、はやるぜ。俺は結構そういう鼻がきくんだ。ファミコンとか、たまごっちとか、そういうのは全部読みが当たってんだ」
やはり今が変わり目なのかもしれないと六田はぼんやり考えた。言葉は未来を変える。同じところを回るだけの人生から足を踏み出してみる。
「試しにやってみます」
「そうだ。人間はいろいろ挑戦しねえとな」
「はい」
「いろいろやって傷ついて、酒飲んで、話をして」
六田が頷く。
「海は遠いぞ。あと三時間はかかる」
「はい」
「そこらで朝飯食っていこうや。牛丼とかさ」
六田はフロントガラス越しに前を見た。片側二車線の国道は、通勤の車で混雑し始めている。国道沿いのコンビニやガソリンスタンドが営業を始めており、歩道を歩く人の姿も見える。二宮のバンは車の波間をゆっくり進む。海はまだ見えない。