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『命の恩返し』洗い熊Q

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 僕にはいなかったが直ぐ側にいるのに望んでも話せない。なんて侘しい関係なんだと感じた。

「拓真は進学するの?」と訊いてきたのは高校の友達だ。
「まだ決めてへん」と僕は素っ気なく答えた。
 教室で呆然と窓先の景色を見つめていた僕に、唐突に友達が訊いてきたのだ。
「お前は決めてるのかよ」と逆に聞き返してやった。そうすると友達はきりっと背筋を伸ばして僕に敬礼をし言い切るのだ。
「自衛官」
「……マジか?」
「おう、大マジ」
 その顔は真剣で本気だと直ぐに感じたが、友達の性格から想像できなかった答えに思わず僕は笑っていた。
「なんだよ、可笑しいかよ」
「いやいや可笑しいって言うか……何でそうなのかって想像できなくって」
「俺がイージス艦操る姿ってカッコいいと思うだろ? そう思っちゃた訳よ」
「イージス艦? マジか? イージスは格好だけで操作できないぞ。おもっくそ勉強せな」
「志はあるぞ、ちゃんと。“日本に恩返し”したいと感じちゃった訳よ」
「恩返し? またそう思う訳よ?」
「いやまあ……こう平和に生まれてきてな、何かこういい生活出来てんのは日本って国のお陰かなって思う訳よ」
「それで自衛官か。その志は悪くないかなと思うけど」
「まあ、言った通り頭良くなきゃって現実だけどなぁ。お前位に勉強が出来ればな……」
「勉強は努力次第で何とかなるよ。それは間違いない」と、その答えだけ僕は自信を持って返していた。

 この友達との短い会話の中で幾つものワードが僕に引っ掛かった。

 恩返し。カッコいい。そして努力と。

 努力という言葉には自信があった。何故なら僕がして来た事だから。
 中学時代の僕の成績は底辺だった。誰よりも、もしかしたら日本中で最下位だったかも。それを危ないとも、母さんに対して申し訳ないとも思い先生の所に来た。
 今思えば先生にも大変迷惑を掛けた。
 何せ今間で真剣に勉強と向き合った事がなかった。教科書を開いても意味が分からん処か読めない。それを一つ一つ先生に質問した。
 それを先生は全て答えてくれた。時間も量も嫌な顔をせずに付き合ってくれた。一つの成功が自信となって更に努力を上乗せしていった。
 お陰で高校入試間近の僕の成績は全国平均の上となっていた。何の不安もなく望んだ公立校へと合格を果たした。
 母さんの為に、そして先生の尽力もあって。
 僕が返せるのは勉強での成果でしかなかった。

 そして恩返し。
 今の僕がよく考える事だ。
 高校にも入って、進学や就職なんて話しが現実に見えてきて。
 これまで一人で頑張っていた母さんに。そしてここまで勉強に付き合ってくれた先生に。
 恩返し。二人は僕が好きな事をやってくれるだけで良いと言いそうだ。

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