親河童はゆっくり振り返り、
「ゆめってなんですの」
答えた。
「びぃ!」
子河童が叫び、
「びぃ!!」
私も叫ぶ。
親河童に手を引かれて、子河童は湖の底に消えた。あの子もいつかはあんなに大きくなってしまうのだろうか。親河童の手も、ぬるぬるとぬめぬめの中間なのだろうか。
袖をちょんと引かれて、見ると子砂かけ婆が私の顔を見上げていた。
「さあ、あんたはどうしようね」
「まま」
「うん?」
「まま、起きてるの?」
「うん、起きてるよ」
「まま、起きてたの?」
「うん、起きてた」
「まこ、起きてたの?」
「うん、ばあちゃん」
母は既に仕事に出ていた。無人のリビングの食卓には「お誕生日おめでとう。大人だね」と書かれた一枚のメモ用紙が置かれていた。顔を洗って和室に入ると、祖母の仏壇に手を合わせた。部屋全体に柔らかな日光が注ぎ込んでいた。私と祖母はその光の中で、できるだけ優しく見つめ合った。
供えものである煙草を一本抜き取って、慣れない手つきで火を点けた。祖母が生前好んで吸った銘柄、キャスターの五ミリ。煙草を吸うなんて人生で初めてのことだったけれど、その行為は不思議と自分によく馴染んだ、気がした。甘いバニラの香りを放つ煙に何度か激しく噎せて、目の縁に熱い涙がこみ上げてくるのを感じた。