時が流れ、ジャックは結婚し、一人の娘を授かった。その娘もやがて結婚して双子の女の子を産んだ。二人の名前はローズとメアリだった。名付け親はもちろんジャックだった。
ジャックは、今でもあのメアリと話した時間を時々思い出す。自分が手がけた仕事の中で、メアリとローズのスープの記事は一番心に残ったいい仕事だったと思う。あの時、メアリはやっぱり半分頭がおかしいのかもしれないと思っていた。しかし、今では彼もあの頃のメアリと同じぐらいの歳になった。彼女の話を丸ごと信じてもいいとすら思う。
孫のメアリとローズに名前の由来の話をせがまれて、ジャックはこの話をしてやった。小さなメアリとローズはこの話に夢中になった。
目を輝かせて二人は言った。
「今日はママに、涙のスープつくってもらおうよ」
「涙は一粒でもいいよね。きっといつもよりずっと美味しいスープになる」
「メアリとローズ、悲しい時は絶対、いつもママの涙のスープ飲んで元気出す」
小さなメアリとローズの幸せに満ちた声は、ジャックには天使のおしゃべりのように聞こえた。