「なんだ、遠慮するなって。これ、俺が捕った猪、食ってみな」
何か言う前に横に座っていたおじさんに皿を勧められる。ちょこっと頭を下げて箸で一切れ、その肉をつまんだ。
「……おいしい」
噛み締めた瞬間口の中に広がる臭みは、むしろ清々しい。かみごたえのあるそれを、夢中で咀嚼した。
「だろう!」
途端嬉しそうに笑ったおじさんに、譲は思わずもう一切れ、と箸を伸ばす。これが、あの時自分が対峙した、味。あの恐怖に打ち勝たなければ味わえなかった、肉。
今までなんとなく肉料理を食べてきたけれども。人の口に入るまで、どれだけの苦労や困難があるのだろう……いや、難しく表現するのはよそう。スーパーの肉って、有難い。これだ。当然のように供される肉の、食べ物の、なんと有難いことか。
「狩人の宴、か」
始め想像していた結果とは、少し違ったけれども。来て良かった、譲は心からそう思い、目の前の食べ物をじっくりと噛み締めた。