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『そこへ行く』室市雅則

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 初めて向かった土地で初めて見る建物がコンビニというのも味気ない気がするが、腹が減っていたので、中に入り、ツナと卵のサンドイッチと缶コーヒーを買った。
 少しだらしないが店の前で、それを食べた。
 空気が違うせいか、疲れているせいか、やけに美味しく感じた。

 小腹を満たし、私は歩き出した。
 地図を見ると歩いて向かえる距離だ。
 川を渡り、歩みを進める。私と同じ年齢くらいでスーツを着た男性たちとすれ違う。いつかは私もこういう風になり、きちんと働くことができるのだろうか。夜行バスで半日かかる距離の場所でも、人が生き、働き、生活を営んでいる。
 だが、ここは私のいる場所から半日の距離であっても、ここにいる人々にとっては当たり前のことだ。
 いつも私は私を中心に考えてしまう。この考え方は改めなくてはならない。

 川沿いを歩き、その川を渡り、しばらくすると見えた。
 『銀山町』
 ちょうど路面電車が出発をした。
 駅に入り、ホテルがどこにあるか街を見渡す。
 緑に白抜きで『CHISUN HOTEL』とあるのが分かった。
 きっとここだろう。
 横断歩道を渡り、ホテルの前に立った。ちょうど従業員の男性が玄関から出てきた。
「こんにちは」
 そう声をかけられて私はどう返事をしたものか悩んだ。
「あの……」
「いかがなさいましたか?」
「今日、泊まれますか? 一人で一泊なんですけど」
「ただいま確認いたします。よろしかったら中にどうぞ」
 男性の後に続いて、私はホテルの中に入った。縦に長い廊下の突き当たりにフロントがある。男性はパソコンで宿泊状況を確認している。
「お待たせしました。一名様、ご宿泊可能です」
「ありがとうございます」
「チェックインは十五時ですが、よろしいでしょうか?」
「はい、大丈夫です」
「ご観光ですか?」
「えっと、まあ」
「周辺マップもございますので、よろしかったら」
「ありがとうございます」
 私は名前を名簿に記載し、宿泊代を支払うとマップを適当に取って、フロントの側の椅子に腰をかけた。
 そして、文庫本を取り出し、奥付を見た。
『銀山町電停前、ホテルにて』
 ボールペンを手にして、私は呼応するようにそこに書き込んだ。
『私もここに来た』
 私は文庫本を閉じ、立ち上がった。
「どこに行こう」

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