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『そこへ行く』室市雅則

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 この世の誰とも繋がりのない人間などいるだろうか。
 自分は一人ぼっちだとか、孤独だとか感じている人間は大勢いる。しかし、そう考えていても、その人間が着ている服は、例え大量生産品であろうと誰かが作ったものであるし、蛇口を捻って飲む水だって、誰かが働く浄水場を通過している。
 つまり生きている限り、見ず知らずの誰かと繋がっているのだ。
 いや、こういった場面では、そのような物質的なことではなくて、心の問題、ハートの面での繋がりを指しているとは承知している。しかし、その身にまとったシャツはどこの工場で作られたのか、どういった顔のドライバーが運搬をしたのかを想像するというのは、どうだろうか? 本当に自分が一人だと感じたら、これも繋がりの一種にカウントしても構わないと思う。それで気持ちが救われるのなら何だって構いやしない。
 この広い世界で、たまたま手にする品は、世界でたった一人、自分が手にするために生まれて来たのだと考えれば、視界も開ける気がするのだが、どうだろう?

 こんなことを思い浮かべながら、自分を励ましている。
 今の自分には、首回りがすっかりよれたTシャツの来し方に思いを馳せるくらいの繋がりしかない。春先だから、このTシャツ一枚だけで過ごせるが、夏が来て、秋を過ぎて、冬になった時、まともな服を買うことはできるだろうか。
 四十手前になって会社をクビになり、再就職先も決まらず、人生と世間と自分に絶望をしている所だから、そんなことで平静を保とうとしている。
 妻や子供がいなくて良かったなと思う。しかし、そんな存在がいれば、踏ん張ることができたかもしれない。両親は他界し、一人っ子の私は家を譲り受け、寝る場所には困っていない。当面は貯金を崩してサバイブは可能と呑気に構えていたら、あっという間に時間が経って、無職期間が半年となり「やべえ」と腰を上げたら、全く仕事が決まらなかった。
日々、やることがないというのは結構な苦痛である。
 ルーティン的にハローワークに行き職探しをするがどうせ空振りだろうと思うと、どうも熱が入らない。とりあえず行くことで時間も潰せるし、一歩でも前に進もうとしている自分を自分に見せて、何とか腐らないようにしているという感じだ。
 いつもその後に、チェーンの古本屋に向かうのもルーティンである。

 この古本屋は売り場面積が広いので、気持ち良く本を選ぶことが出来る。毎日のように通っていれば、本のラインナップはあまり変わらないが『もしかしたら今日はあれが』のようなチープな希望が今の私には必要だった。
 それに平日の日中にも関わらず、私と似たような年齢のお客さんがいるのも安心する。働き盛りの男がそんな時間に何をしているのだと思われるのが関の山のはずだが、ここにいれば妙な連帯感、安心感があるのだ。
 ただし、私は毎日のように時間を潰させてもらっているささやかな返礼として、来店の度に百円の本を一冊は購入するようにしている。そうして、家に帰って数日で読み切り、それが溜まればまた買い取ってもらうから、私がいつも眺める文庫本のコーナーには、つい先日まで私の部屋に泊まっていた本が何冊も並んでいる。

 今日もハローワークで空振りだろう応募をし、古本屋に向かった。

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