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『そこへ行く』室市雅則

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 棚を作家名『あ』から順番に眺めた。今日はどれを買おうかと足を進めていると『や』の所で柳田國男の『遠野物語』で目が止まった。
 その存在はもちろん知っているが、これまで読んだことがなかった。
 今日はこれにしようと手に取り、会計を済ませて自宅に帰った。

 昼飯の時間となったので、激安店で購入したひと玉10円のうどんを茹で、刻んだネギを入れて食べた。
 そして、寝転がって『遠野物語』を読み始めた。
 本の内容を簡単に言うと、岩手県遠野地方の言い伝えや民話を集めたものだった。『へえ、こんなことが』とその不思議さに魅了されて、あっという間に読み終わった。
 時間だけはあるので、最後の一文字まで読み尽くそうと奥付までページを捲ると、上部に鉛筆でメモが書かれていた。
『銀山町電停前、ホテルにて』
ぎんざんまち? どこだろう。
ネットで調べると広島県の路面電車の駅名。そして「かなやまちょう」と読むようだ。
「広島か」
 私はこれまで広島には行ったことがない。修学旅行での大阪が、私にとっての最も西だ。
 どんな所だろう。
 これを書いた人は、どんな場所でこのメモを書いたのだろう。
 確かめたい。
 このままネットで地図を見れば、どのような土地かは一目で分かる。しかし、そうしてはいけない気がした。自分の目で、生のその土地を見なくてはいけない気がした。
「行くか」
 幸か不幸か、今の私には時間だけはある。だが、お金はあまりない。
 歩こうかと考えたが、さすがにそれは無理だろう。
 一番安価な交通手段を調べると、横浜から22時発の夜行バスが出ていることが分かった。
 早速、今日出発分の予約をし、バックパックに財布とスマホ、下着、Tシャツを一枚だけを入れて準備をした。

 夜まで時間を潰し、集合場所である横浜駅のビルに向かった。
 ガラガラを想像していたのだが、春休みと思われる学生で集合場所は賑わっていた。それでも横浜から広島に行く人間は少ないだろうという予想は外れでバスは満席であった。
 みんな、何をしに広島に向かうのだろうと自分のことは棚に上げて思った。
 定刻となり、バスは出発をした。
 車内は満席とは思えないくらい静まり返っており、すぐに鼾さえ聞こえ始めた。広島に到着するのは朝の9時半前である。私も寝てしまおうと思って目を瞑ったが、初めての夜行バスであり、根が神経質に出来ている私は他人のイビキが響く中では眠られそうにない。
 窓は遮光カーテンで閉じられていて、外を眺めることができず、どこを走っているのか分からない。ただ、その僅かな隙間から高速道路のオレンジの照明がリズミカルに差し込んでくる。
 一体、どこを走っているのだろう。

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