『無口な女』
桜倉麻子
(『もの食わぬ女房』)
自分以外の人間に遣う金はない。女遊びにも飽き、エリートコースを歩むことに集中していた「私」は、支店長として赴任した先で地味な女部下と出会う。金も面倒もかからない、都合のいい女との出会いにほくそ笑む「私」だったが…。
『死んだレイラと魔法使い』
本間久慧
(『シンデレラ』)
髪の長い、キレイな女性だったと思います。見たことの無い人でした。ぼくは彼女と目が合ったのですが、夢を見たのかと思いました。なぜなら、不可能だからです。そのときの彼女は、猛スピードで落下していたはず、だからです。
『BAR竜宮城からの贈り物』
野月美海
(『浦島太郎』)
なんて言い訳をしよう。BARを出た瞬間から翔太はぼんやりと考えていたが、とうとう答えが出ないまま安アパートのちゃちな玄間扉の前まで来てしまった。震える指は、それでも迷わずチャイムを鳴らす。ピーンポーン
『山月記トロピカルVer.』
横山信之介
(『山月記』中島敦)
何故竹からパイナップルが落ちてくるのか分からなかったが、そのパイナップルは明らかに普通のモノとは違っていた。ギョロッとした目が二つ、ギラリと光る二本の八重歯を持った口があったのだ。人面パイナップルだ。
『救われた人魚姫』
あべれいか
(『人魚姫』)
「もうサイテー!」未央には結城君という彼氏がいて、付き合って今日でちょうど2か月。そんな記念日のデート中、ふと彼女が、自分を好きになったきっかけを聞いたことが、今回の騒動の発端だ。人違いだったという。
『走れ土左衛門』
山口香織
(『走れメロス』)
沖田のクラスは文化祭で『走れメロス』の劇をやる。張り切る彼をよそに、クラスメイトたちは勝手な意見ばかり。時代劇風にアレンジすることが決まり、さらに印刷係のミスで『走れ土左衛門』というタイトルになってしまう。「水死体」を意味する言葉のため、やむなく主人公がゾンビ化するという展開に。
『ご家老の気苦労』
菊地ふびお
(『目黒のさんま』)
「さんまは目黒に限るっ!」で笑い者になったお殿様 赤井御門守。ご家老は気を揉み、これ以上噂が広がらないようにと、その場にいた人たちに約束をとりつけて回るのだが、町ではそこかしこから…
『赫い母』
つむぎ美帆
(『子育て幽霊』)
羽嶋郁美の名を見たのは、中学卒業以来、十八年ぶりのことだ。小さな町の中学校で、彼女は注目の人物だった。そして、孤独だった。彼女の母親が起こした事件は、退屈な田舎町には充分すぎる刺激を与えるスキャンダルだったのだ。