『私ととある料理人の話をしよう』
柑せとか
(『注文の多い料理店』(岩手県))
病院の待合室である青年と出会った私。清潔とは言い難い風貌の彼に、「何の仕事をしているのか」と尋ねたところ、彼は「料理店を経営している」と言う。あまり料理には向いていなさそうな見た目の青年だが、彼に誘われるままに私は彼の店へ遊びに行くことになった。
『花に嵐のたとえもあるが』
川瀬えいみ
(『海女と大あわび』(千葉県御宿町))
彼の趣味は海釣り。私の趣味は美術館巡り。結婚を前提に一緒に暮らし始めたのはいいけれど、二人の休日はすれ違い続き。一人きりの寂しい休日を幾度か過ごした私は、やがて、休日に嵐が来て海が荒れることを願うようになる――。
『走れ、悪役の津島』
ラケット吉良
(『走れメロス』)
大学のサークル内での悪行がバレた津島は、主将の王野に追放を言い渡された上、レポート剽窃の罪で事務室に突き出される事となる。友人の芹沢を身代わりにして大学を脱出した津島は、自分の悪行を王野に密告したのが芹沢である事に気付く。津島は追っ手から逃げつつ、芹沢に復讐を果たさんと走る。
『君に見せたかった、ふるさとの花』
さくらぎこう
(『西行法師作「山家集」「願はくは花の下にて春死なんそのきさらぎの望月の頃」』)
長く勤めあげた会社を定年退職し自由を手に入れたはずだったが、心が満たされない日々を過ごしていた。そんなある日高校時代の友人の山下から「逢わないか」と連絡を貰う。学生時代の2人の夢は同じだった。山下は夢を実現し、私は失敗した。長く会うのを避けて来たが彼と話をするうちに、自分のつまらない拘りに気づかされたのだった。
『浦芝』
太田純平
(『浦島太郎』『芝浜』(落語)』)
ある酔っ払いの男が、砂浜でイジメられていた亀を助ける。しかしイジメていた青年たちに返り討ちにあった男は、翌日、自宅のベッドで目が覚めた。いかんせん昨日の記憶がおぼろげな男であったが、不意に思い出して妻に言った。「俺は昨日、竜宮城に行った!」と――。