『マユミツキユミトシヲヘテ』
香久山ゆみ
(『竹取物語』)
社会からはみ出した少年と私は、人里離れた星降る草原で逢瀬を重ねる。彼の祖父は悲恋の相手のため生涯月に向かい矢を放った。月への憧憬を語る少年。そんなの御伽噺だ、目の前の私を見て…訴えるも彼の耳には届かない。赤い果実を手に入れた彼は、ついに月を射る。それは私達の楽園の終焉でもあった。
『祭りの日』
せとうちひかる
(『石城山の山姥(山口県光市塩田)』)
『ドーン、ドーンドン、ドン』村の広場から、和太鼓の音が大きく、大きく聞こえてきました。夏祭りの始まりです。岩城山のてっぺんにある岩の上に、一人のおばあさんが白い着物の裾と、白く長い髪を風に揺らしながら立ち、祭りの始まる里を見下ろしています。昔、昔からこの岩城山に住んでいる山姥でした。
『水神の沼』
紗々木順子
(『照夜姫伝説(宮城県大崎市)』)
昔、水神様の住む沼の近くに長者がおりました。長者の一番目の娘は旅籠に嫁に行き、三番目の娘が反物屋の息子を婿にもらいました。ところが離れに住む二番目の娘が反物屋の息子の子を身籠り水神様が娘を庇います。しかし、それで二番目の娘がしあわせになることはありませんでした。
『涙の確証』
加持稜誠
(『竹取物語』)
僕はある日、路上ライブで自分の歌姫を見つけた。彼女にぞっこんになり毎日通い詰めるが、ある日を境に彼女は忽然と姿を消した。そして失意に堕ちる僕。それから数か月後、彼女は思いもよらない形で、僕の前に姿を現した……