『八歳の親孝行』
戸佐淳史
(『親孝行息子』)
八月の夕方、仕事帰り。息子と同い年くらいの、迷子らしき少年を見つける。声をかけるとやはり迷っているらしく、友達の家を探す内道が分からなくなったという。訊けば少年は息子の友達で、まさにうちに来ようとしていたらしい。思いがけず俺はこの少年との出会いを通じ、息子の成長を知ることになる。
『弓を捨てた狩人太郎』
橘成季
(『古今著聞集』)
信濃の国の住人、太郎は狩りの名人だが、ある日、思うように獲物が見つからず、昼食後、山歩きの疲れから居眠りすると亡き母が夢に現れ、「必要以上の動物を狩ってはならない」と告げられる。その後、親子連れの猿に出会い、見事に弓を命中させるが、母猿の子猿を守ろうとする仕草にショックを受ける。
『自尊の果て』
川瀬えいみ
(『山月記』)
屈折した自尊心ゆえに、人の世で挫折し、李徴は虎になった。虎の世界でも落ちこぼれて猫になり、猫の世界でも落ちこぼれて鼠になる。鼠として死を覚悟した時、李徴は生まれて初めて自らの真の姿を見るのだった。