『薔薇のことば』
三角重雄
(『聞き耳頭巾』)
豊本和人は社会的にも家庭的にも心を閉ざして生きてきた。若い頃に抱いた夢を心の奥底に封印して生きるうちに、人生の歯車が狂い、とうとう出勤不能の状態になった。だが、ある雷が鳴る日、突然、すべてのものの声が聞こえるようになった。わけても薔薇のことばが和人を導いた。新しい人生が始まった。
『白紙の窓』
和織
(『窓』『計画』ボードレール)
少女は穏やかに、まるでもう何度もそれを経験しているかのように、終わることに対してなんの迷いもなく、日々を過ごしている。毎日白紙の本を開き、そこに、想い描く。
『ボックス』
イワタツヨシ
(『パンドラの箱』)
彼らは箱の中にいる。その数は十九。箱は動くこともあり、箱同士が連結することもある。連結はいつも自動的、且つ不定期に起こる。この世界について、ジェリーには幾つかの理論がある。例えば、宇宙理論。それは「この十九の箱は惑星であり、箱の外側を占めているのは空間で、銀河である」という理論。
『リーリエとジーリョ』
イワタツヨシ
(『ジキルとハイド』)
その星の人間は卵生で、殻を持った卵を陸上に産む。それから孵化まで百年の歳月を要し、生まれてくる子どもは、その親に関係なく、孵化するまでの間に卵と身体的に接触した他者の形質を受け継ぐ。博士のカーボネルは、ある目的で、二つの卵を地球に持ちこみ、地球の「善人」と「悪人」に接触させる。
『無題』
イワタツヨシ
(『夢十夜』「第一夜」)
飛行船の墜落事故から命を取り留めた男は、その夜に失った大切なものを探している。しかし男は病にかかり、もう長くは生きられない。やがて男は探すことを諦め、その女性を愛し、「僕が死んだらあそこにそれを埋めて、百年待ってほしい」と、その女性に真珠のような石を手渡す。
『三度目の正直』
河内れい
(『蜘蛛の糸』)
カンダタの前に、蜘蛛の糸が現れる。これで三度目である。「どうせまた切れるだろう」と登るのを躊躇するカンダタを、彼を兄と慕うパースダーが「三度目の正直」と励まし、二人で蜘蛛の糸をよじ登り始めた。やがてカンダタは無事に極楽へとたどり着くが……。
『桜の樹の下の下には』
柘榴木昴
(『桜の樹の下には』)
妹の桜花が行方不明になり10年が経った。兄の樹希(いつき)はふと思い立ち、懐かしの廃寺の脇に立つ桜の下を掘った。その行為はまた、10年越しに樹希の感じた疑念をも掘り起こした。悠然と咲く桜のしたには10年前に起きた火事の被害者である伊吹も立ち寄っていた。