『醜い人』
長谷川蛍
(『みにくいアヒルの子』)
僕は醜かった。その醜さのせいで、親に疎まれ、学校では孤立し、先生にすら笑われる。どうして僕は醜いのだろう。どうして醜いことがいけないのだろうか。僕を理解してほしい。僕を愛してほしい。誰か、僕を救ってくれないか。
『蟻』
杉長愁
(『蟻とキリギリス』)
同級生の僕と博文は居酒屋で安藤が来るのを待っている。安藤は一年前に父を亡くし、会社を継いでひっきりなしに働いていた。店内に流れ始めるアメイジング・グレイス。僕は、子供の頃のある夏の日に体験した、安藤の父の秘密を博文に語り始めるのだが……。
『完璧な子供』
中杉誠志
(『夢十夜・第三夜』)
私は駅のホームで電車を待っている。ひとりではなく、六つになる子供の手を引いている。その子供はダウン症児である。目的の電車はなかなか停まらない。次から次へと通過していく。そこでふと、私は考えた。次の電車も停まらなければ、子供を線路へ投げ捨ててしまおう、と。
『はたから見たらごんぎつね』
渋澤怜
(『ごんぎつね』)
動物のくせに言葉が分かり、でも喋れないごんぎつね。罪の概念はあるのに、盗みの概念は分からないごんぎつね。ごんと兵十は原典では一度も会話せず、死してから向き合いますが、そこには察しの文化が生んだ甘え、勘違い、悲劇と見せかけた喜劇があるように思います。5バージョンで改変してみました。
『トイレの平田さん』
山名美穂
(『祇園精舎』)
学校のトイレ掃除を生業とする「平田さん」が、突然いなくなった。トイレの掃除を急きょ任された僕たち生徒を襲う「女子トイレの流血」事件。死んでしまった平田さんの呪いが血となって現れた…?
『絶望聖書』
柘榴木昴
(『クーデンベルク聖書』)
希少本コレクターの「私」が狙いを定めたとある聖書には、人類史において記されない、「意識されないまま上書きされた」人類を規定する秘密が潜んでいた。それは計算されたものでも隠されたものでもない、生み出されてしまった怪物級の秘密だった。
『飲み込んだ涙のゆくすえ』
間詰ちひろ
(『浦島太郎』)
おばあちゃんの遺言の品を受け取りに、史郎は叔父の家にやってきた。おばあちゃんから残された鍵で、開いた扉の先には大きな甕があった。その甕のなかをのぞき込んだとたん、史郎は甕のなかに引きずり込まれてしまった。
『あめゆき』
緋川小夏
(『雪女』)
一人娘の挙式当日。もう春だというのに雪が降ってきた。積もる心配をする「わたし」を尻目に、嬉しそうな娘。そこには娘が亡くなった母親と交わした、わたしの知らない約束があった。そしてわたしもまた、娘に伝えていない大きな秘密を抱えていた。