『邪眼』
末永政和
(太宰治『燈籠』)
申すも恥ずかしいことでございます。私は全身黒ずくめの、眼帯の男性を愛してしまいました。嗚呼、その隠れた左目はどんな力を宿していることか! そうして私は、あの方のために盗みを働いたのです。それにちがいはございませぬ……。
『夢をみる』
モエコオオツカ
(『胡蝶の夢』)
最近、よく同じ夢をみる。「もう八時よ。いい加減起きなさい。遅刻するわよ。」
下から私を起こす声が聞こえる。もそもそと体を起こし、ぼんやりと目線の先にあるものを眺める。いつの頃からか私は布団の中で夢を思い出すのが習慣になっていた。
『嘘発見電波が流れた日』
西橋京佑
(『ピノッキオの冒険』)
嘘発見電波が世の中に流れ始めた。嘘をつくと鼻が長くなるらしいその電波は、人の思考の奥底にまで到達し、事実と違う思考までをも摘発すると言う。だけど、事実と違う思考は全て悪いものなのだろうか?僕は“コオロギ”を連れてある場所へ向かった。
『女神の湯』
西橋京佑
(『金の斧』)
悩み多き小藪太郎は、なんでも願いを叶える女神に出会った。しかし、努力を伴わないものはダメで、堕落に繋がることもダメ。影響はわからないけど、少しだけ記憶が消えるという。何故だかイラついている女神は気にせず、小藪太郎は一番の悩みの解決を望むが…
『亀裂』
伊佐助
(『浦島太郎』)
幹男、26才。保険会社の売れないセールスマン。彼は仕事が絶好調な同期の勝に憧れていたが、ある飲み会での彼の言動で幹男は大嫌いになってしまう。そこには幹男の抱えるコンプレックスも関係していた。悩む彼は愛してやまない海に助けを求めるとそこにある老人が現れ、思いもよらぬ出来事が…
『ブラックサイドカンパニー』
小泉麦
(『桃太郎』『金太郎』『浦島太郎』)
鬼瓦は悪役敵役の派遣を請け負う会社・ブラックサイドカンパニーの社長を務めている。しかし『勧善懲悪』の時代はとうに終わり、経営不振に苦しんでいた。業務提携先のホワイトサイドカンパニーと心機一転、改革のチャンスを狙うが……。
『平和な時代に勇者はいらない』
松みどり
(『桃太郎』)
鬼が島討伐後、桃太郎は家できびだんごを食べてはゴロゴロするばかり。覇気もなく、すっかり太ってしまった桃太郎。見かねたお爺さんとお婆さんは桃太郎を無理やりジムに入会させた。ジムで出会う人々を通じで平和な時代での自分の存在意義を見出す桃太郎のその後の物語。
『ドッペルゲンガー』
植木天洋
(芥川龍之介『人を殺したかしら?』)
自分にそっくりの子がいると言われ紹介された私。私はその子が似ていることでドッペルゲンガーの伝説に取り憑かれ、徐々に精神を蝕まれていく。堪え切れなくなった私は彼女を呼び出し、はさみで切りつけた。それから数年たって大人になった私だったが、ドッペルゲンガーの呪いは私を蝕み続けていたーー。
『五人の誰かさん』
伊藤なむあひ
(『三匹の子ブタ』『七匹の子ヤギ』)
部屋の真ん中にあるベッドでは五人がイカダの木みたいに並んで寝ていた。いつものように誰かさんが一番早く目を覚ます。そして静かに小屋を出て、村の外れの高い柵に囲まれた鶏たちのところに向かった。口角をあげ軽く挨拶したあと、隙間から手を伸ばし卵を五つ取り出すとそれを皆が待つ小屋に持ち帰る。