『走れ土左衛門』
山口香織
(『走れメロス』)
沖田のクラスは文化祭で『走れメロス』の劇をやる。張り切る彼をよそに、クラスメイトたちは勝手な意見ばかり。時代劇風にアレンジすることが決まり、さらに印刷係のミスで『走れ土左衛門』というタイトルになってしまう。「水死体」を意味する言葉のため、やむなく主人公がゾンビ化するという展開に。
『都会の街の喧騒の下』
阿賀山なつ子
(『桜の森の満開の下』)
街は灰色 部屋は虚無 そこに吹くのは都会の風か?いや田舎の風。ノスタルジックな夢の中 桜の花びらひらり舞う 無限の明暗止めた先 やっとようやく目が開ける 男は東京で立派な仕事をしている。しかしある時倒れてしまう。高熱にうなされる夢の中、男は少女に出会い、自分のものにしようと手を尽くすが…
『夢のあと』
篠崎亘
(『山男の四月』)
彼は、ベッドにあおむけになって、ふとんにくるまり、かすかな寝息をたてていた。透きとおるカーテンから斜めに射しこむ朝陽は、部屋のほとんどを琥珀色に染めていた。部屋の空気はひんやりと、無音ではないにしても秩序だった静けさにつつまれていた。
『明日、桜を食べに』
柿沼雅美
(『桜の樹の下には』)
子供の認知をしない男に諦めはじめた茜。不適切会計によって傾きだした会社で働く美保。それぞれの生活の中でふと、桜の樹の、あの場所へ行かなければならないことを思い出した。
『欲しいの因果』
相原ふじ
(『星の銀貨』)
「欲しい」が言えない女子大生がちょっと高めなウインナーを茹でてほおばる。流れるニュースとウインナーおばちゃんに思いを巡らしながら。「欲しいなら欲しいって言わないとあげないよ」欲しいって言ったらもらえるのでしょうか。
『林檎人間』
白石幸人
(『我輩は猫である』)
会社に勤めて八年。課長へと昇進した私についた、初めての部下は何と「林檎人間」だった。名前もない、言葉も喋れない、けれども営業はピカイチ。そんな彼は、真っ赤なボディにふにふにとした手を添えて、今日も意気揚々と出勤してくるのだった…
『夢N夜』
宮川裕陽
(夏目漱石『夢十夜』)
こんな夢を見た。謎の白い部屋で「古いGoogle」と名乗る男に、「私」はある文章を読んでくれと頼まれる。それは夏目漱石の『夢十夜』第六話を何度も何度もGoogle翻訳にかけて再翻訳を繰り返した代物だった・・・。