『みずうみ』
末永政和
(『みにくいアヒルの子』ヘッセ『ピクトルの変身』)
大樹のうえで眠りについていた「影」は、ある晩光の存在を、女の存在を知った。夜ごと思いを募らせながら、「彼」は闇夜の中で音を、香りを、冷たさを、痛みを、そして怒りを知るのだった。
『カボチャの馬車にお邪魔』
洗い熊Q
(『シンデレラ』『ぶんぶく茶釜』『金の斧』)
魔法の時間が切れる午前零時。慌ててカボチャの馬車に飛び込んだシンデレラの前に、思いがけない珍客が先に待ちわびいていた。
『戦にまつわる干支セトラ』
小塚原旬
(『十二支のはじまり』)
2077年大晦日、操重力走の代表選手たちが満場の横浜スタジアムに集結する。彼らは皆、十二支に選ばれた動物たちの血族だった。猫の代表選手、内野珠は猫の十二支入りと己のプライドを懸けて東京スカイツリー上空のゴールを目指す。
『発端』
鈴木一優
(『桃太郎』)
町はずれの小さな家の裏、島の端っこに来た百乃介は、そこで海を見るおじいさんを見つける。おじいさんに友達と喧嘩したことを伝えると、おじいさんは昔鬼と人間の間で起こった事を話す。それを例に、仲直りするよう背中を押すと、百乃介は友人のところへ。おじいさんはその背中を笑いながら見送る。
『ブレーメンの音楽隊』
多田正太郎
(『ブレーメンの音楽隊』)
濃い霧の中。兄弟の旅人が二人。ブレーメンの町に、むかっていた。連中の演奏よー?どうかしたか?うん。なんか変か?だってよ、それがどんなのか、分からんだろ
『カノン』
柿沼雅美
(『花をうめる』)
花音はやっぱり私よりもずっと大人で、女の子として大事なことをひとつも共有できていなかったような気がした。私の知らないところで花音はどんな話をして、どんなことを楽しいと思っているんだろう。私たちはきっと友達だけど、それ以上にはなれない。
『紅葉かつ散る』
鹿目勘六
(『一房の葡萄』)
教師退職後、畑と俳句を生き甲斐にしている山田冴子を、教え子が高校入試の合格の報告に訪ねて来る。冴子は、生徒達と接しながら自分の来し方を振り返り行く末を考える。