『罪深い作家たち』
楠本龍一
(『不思議の国のアリス』)
私はただ「アリス」について書こうとしただけだった。でも今はそうしようとしたことを後悔している…右を見ても左を見てもホールはどこまでも続いて、先の方は針の先のように小さく暗くなってどうなっているのか分からない。
『幸せ半分』
吉倉妙
(『ぶんぶく茶釜』)
罠にかかったところを道具屋に助けられた狸は、恩返しをするために和尚に相談した。茶釜にしか化けられない狸だが、和尚のアイデアによって貧しい道具屋に福をもたらす。そしてある夜、狸は再び和尚のもとを訪ねた。
『輪廻』
沢田萌
(『源氏物語』)
父の死後、母と田村は再婚した。それは不幸の始まりだった。物心ついた時から父の秘書だった田村は父というよりお兄ちゃんだった。再婚後も、今まで通り「お兄ちゃん」と呼んだ。母には叱られたが、田村はそれでいいよと笑った。
『120』
小岩井巌
(『メリイクリスマス』太宰治)
平日の小さな映画館。レイトショーはぎゅうぎゅう。館内の一番後ろに立つことになってしまった同僚二人には気まずい雰囲気が。120分の上映時間は長いのか、短いのか。森下には時間の感覚があまりよくわからないのだ。
『幻影団地』
実川栄一郎
(『むじな』『のっぺらぼう』)
幽霊が出るという団地の取材をすることになったフリーのルポライターである私。夜の現場を訪れてみると、誰も住んでいないはずの部屋の、通路に面した台所の窓にほのかな明りが灯った。思わずドアのノブに手をかけると…
『一寸法師』
小椋青
『一寸法師』
小さいままでいられればよかった。最近、思うのはそのことばかりだ。自分の体を持て余すたび、そういう気持ちになる。小さかった頃の方がずっと、体も心も機敏だった気がする。今の自分には幸せだという実感が無い。
『泥棒ハンス』
化野生姜
(『おしおき台の男』)
ハンスはそこそこ名の売れた泥棒であった。盗めない物はなかったが頼まれない限り進んで盗むような事はしなかった。そしていつも酒場の奥で安ビールをすすっていた。ある日、ハンスは死体を盗んで欲しいという依頼を受ける。
『大きな小松菜』
田中田
(『大きなカブ』)
東京都23区の片隅にあるこじんまりとした畑。そこで高橋平治が作る野菜はどれも、売り物より一回り小さかった。ところが、今回の小松菜だけはこれまでの野菜が嘘のように大きく育った。畑の半分を埋め尽くすくらいに。