『人殺し』
大前粟生
(イソップ寓話集『人殺し』)
新しくアパートに引っ越してきた男はひょんなことから隣の部屋に住むヒトシを殺してしまい、ヒトシの姉に追いかけられてクリスマスの夜に町を走り回っている。その様子をレストランの窓越しに中年の男女が見ている。中年の男女は追いかけっこするふたりが気になって、ふたりを追いかけていく。
『舞姫は斯く踊りき』
木江恭
(『舞姫』森鴎外、『サロメ』オスカー・ワイルド)
繁華街の街角で待ち合わせる、出会い系サイトで知り合った男と少女。男は少女の完璧な美しさに狂喜し欲望を滾らせるが、少女も只者ではなかった。「運命のひと」を探しているという少女の正体と、本当の目的とは。
『オクリモノ』
村越呂美
(『賢者の贈りもの』O.ヘンリー)
会社社長の女性が刺殺された。殺害の容疑者は六本木のキャバクラ嬢、小柳周子。関係者の証言から、小柳周子は被害者女性の長男、西野清彦の交際相手とわかる。周子はなぜ、恋人の母親を殺害したのか?週刊紙の記者は関係者に取材をした。
『綱』
大前粟生
(『蜘蛛の糸』芥川龍之介)
優秀な精子を選び出すために集められた男たち。選別の第一段階として筆記試験を終えた男たちは次のテストのためにだだっ広い会場に案内される。すると、果ての見えないほど高い天井からたくさんの綱が降りてきた。これを登れということだろうか。綱を登る男がいて、落ちる男がいる。登らない男がいる。
『光の果てに』
あいこさん
(『竹取物語』)
大学卒業後、就職先が決まらなかった茜は実家に戻ることにした。同級生たちと違い、社会の一員として歩んで行くことができない茜は、ある夜、不思議な灯りを目にし、バカらしいと思いながらも願い事をする。その後について知っているのは、たった一人の老婆だけであった。
『ミスター・ワンダフル』
中村吉郎
(『クリスマス・キャロル』チャールズ・ディケンズ)
葬儀屋の海老名勝はケチで毒舌、ほとんどの人から良く思われていない。クリスマス・イブの夜に、かつての共同経営者で7年前に亡くなった筈の丸井さんが勝の前に姿を現わし、勝の寿命が今日迄であることを告げる。そしてこれから3人の来訪者があることを伝えるが、その3人とは……
『黒いパンプス』
大前粟生
(『シンデレラ』『ラプンツェル』『金太郎』)
シンデレラ科に所属するミカはシンデレラになりたいけれど、将来への保険のために就職活動をしている。ラプンツェル科の子はタクシー代わりに使われたり、彼氏は桃太郎科をやめて本気で金太郎を目指そうとしていたり、かぐや姫科の子は飛び降りたり、不安とともに生きる若者たちの一日。
『桜の樹の隣には』
双浦葦
(『桜の樹の下には』)
十二月、未明。都内で一人暮らしをする大学生から通報が入った。声は静かに告げた。隣人が人を庭に埋めている――。現場となったのは古いつくりの一軒家。その庭には、巨大な切り株と、懺悔する男がいた。
『かみかくし』
薮竹小径
(『草迷宮』)
行きつけの珈琲店に入ると沢山の人がいる。どうやら百物語の団体に紛れ込んでしまったらしい。その集団に紛れてなぜか町を練り歩く。気がつくと目の前に鳥居が現れる。大好きな祖母の姿を求めて、祖母が良く歌っていた童歌に導かれる。