『生まれかわった少年』
小笠原幹夫
(『勝五郎再生談』平田篤胤)
明治十六年に埼玉県川越在の農家に生まれた松吉は、疱瘡を病んで、六つのとき、明治二十二年二月十一日午後四時ごろ亡くなりました。ところが、明治二十七年七月二十五日に、埼玉県川越の時計商・安西善友の家に卯三郎という子として生まれかわったというのです。
『桜の木の下にて』
大野展
(『桜の木の下には』)
“桜の木の下には屍体が埋まっている”と彼から聞いた「私」は、自ら桜の木の下に埋まりたいという欲求に駆られそれを実行し、異様な死者の国を垣間見る。そしてついには、桜によって命を絶たれようとするが、しかしそれが本当の望みであったことに気づき、安心しつつ意識を失う。
『蛇と計画』
和織
(『アダムとイヴ』)
僕にはあの蛇の気持ちがよくわかる。全てはイヴの存在が招いたこと。イヴがいなければ、彼女を騙した蛇は、自身でずっとそれに気づいてはいながらも、何とかその狡猾さを抑えていられたかもしれない。翼を失い、地に這いつくばって生きることにはならなかったかもしれない。
『BAR竜宮城からの贈り物』
野月美海
(『浦島太郎』)
なんて言い訳をしよう。BARを出た瞬間から翔太はぼんやりと考えていたが、とうとう答えが出ないまま安アパートのちゃちな玄間扉の前まで来てしまった。震える指は、それでも迷わずチャイムを鳴らす。ピーンポーン
『置き傘』
島田亜実
(『笠地蔵』)
家族にさえ反抗できない「僕」が地蔵に赤い傘をさした時に現れる違う世界に入り込む。無事元の世界に帰ることができたが、「僕」はその世界で出会った怪物の召使いが姉であることに気づく。姉が自分のせいで怪物に罰を与えられていることを知った「僕」は姉を救おうと最初で最大の反抗を始める。
『ある夜の出来事』
長月竜胆
(『じゃがいもどろぼう』)
二人の男が墓地で見つけた俵にはジャガイモが一杯に詰まっていた。それを二人で分けることにした男たちは、暗い墓地の中でジャガイモの数を数え始める。墓地から聞こえるその声に、通行人は妖怪が死体を数えていると勘違い。その上、二人の会話は次々と勘違いを生み、ちょっとした騒動に発展する。
『ウシロアシ』
うざとなおこ
(『ウサギとカメ』)
「また、やっちゃったよ」ウサギは、あんまり速く、はねて、はねたので、ウシロアシがついてきていないのに、ようやく気がついた。あわてると、後ろ足(ウシロアシ)を置いてきぼりにしてしまうのだ。心ばかり早足で、頭と心が浮足立った、かけ足になる。「まだかなぁ」
『オオカミ被害者の会』
Rain
(『赤ずきん』『三匹の子豚』『オオカミと7匹の子ヤギ』『オオカミ少年』)
ある夜、オオカミたちが森に集まり秘密の会議が幕を開ける。次々と明らかになるオオカミ仲間の悲しい結末。オオカミはなぜ最終的にひどい目に合ってしまうのか。物語の運命には逆らえない悲しいオオカミたちの、ハッピーエンドの裏にあったちょっぴりアンハッピーなお話。
『ジャックと〈ジャック〉と竹とタケコ』
大前粟生
(『ジャックと豆の木』『竹取物語』)
大きな月が出ていた夏のその日は、竹から産まれた女が月に帰る日だった。ジャックの父親が死んだ日だった。それから何年か経って、ジャックは父親の形見とタケノコを交換してしまう。母親が窓から捨てたタケノコは、次の朝起きると竹になっていた。竹を登ったところに、竹から産まれた女がいた。