『主よ、人の目覚めの喜びよ』
微塵粉
(『三年寝太郎』)
三年ぶりに目覚めた太郎は、起きるとすぐに11階の部屋の窓から飛び降りた。彼は目覚めに絶望していた。ずっと安らかに、眠っていたかったのだ。だが……
『春色のマニキュア』
緋川小夏
(『マッチ売りの少女』)
介護老人保健施設に入所した認知症の母の面会に行くと、その指先には真っ赤なマニキュアが塗られていた。とても厳格だった母の変化に戸惑う娘・綾子。驚く綾子を尻目に、職員から母と二人での花見を勧められる。満開の桜の下で母が取った、思いがけない行動とは……。
『なでしこの花』
羽矢雲与市
(『酒呑童子』)
中納言の姫君が鬼に攫われ、朝廷は源頼光に鬼退治を命じる。鬼が住むと噂される集落には、鬼使いの仁王丸と貴族の身分を捨てた少女・なでしこが、京から逃げて来た人々と暮らしていた。頼光四天王の一人・渡辺綱との激しい戦いの中で、仁王丸はある願いを口にするのだった。
『弧の増殖』
末永政和
(岡本綺堂『海亀』)
月夜の晩に一人浜辺を歩いていると、消波ブロックに沿って円弧のような跡が連なっていることに気がついた。それは産卵の場所を求めて彷徨う、海亀の足跡なのだった。消波ブロックに行く手を阻まれた海亀の顔は……。
『キャッチコピー』
多田正太郎
(『童謡・冬の星座』文部省唱歌)
♪木枯らしとだえて。さゆる空より・・。星座はめぐる。納得できるか?何のことだ?普通、すぐそこってー感じだろ。目と鼻の先、ったらよ。まぁそんな感じだよなぁ。
『マッチの火が消えれば』
西野まひろ
(『マッチ売りの少女』)
ヤリサーに所属する俺たちは女子新入部員の山本さんを森に誘い出し、犯そうとした。俺たちはマッチを全て使い終わったのち、山本さんを集団青姦するつもりだった。そんななか、彼女が奇妙な話しを始めたんだ。今からその話をしようと思う。
『大輪の花』
菊野琴子
(『酒呑童子』)
水を切るように肉を斬っていたあの頃、僕は楽しかった。なすべきことをしていた。だから楽しかった。あのときも、鬼を恐れる人々のために、鬼のふりして懐に入り、目出度く退治した。その後出逢ったのは、花びら散らした大輪の赤い花………どうしてだろう。それから僕は、ぐるぐるぐるぐる廻っている。
『最後の料理』
NOBUOTTO
(『銀河鉄道の夜、注文の多い料理店』)
銀河鉄道に残されたジョバンニが目覚めると、そこは宇宙海賊ラポの船の中であった。ラポに誘われて宇宙一美味しい料理店「クチーナ」に行く。どの料理も絶品である。しかし「最後の料理」の意味が気になるジョバンニであった。
『飼育』
植木天洋
(『人魚姫』)
僕は先輩から一週間の約束で魚を預かることになった。ところが大きな発泡スチロールで届けられた魚は「人魚」。彼女はとても魚臭くぬるぬるとして、意地汚く昆布にがっつき、真珠色の牙を持つ、カエルのおもちゃがお気に入りの黒髪の美女だった。彼女との奇妙でタフな共同生活がはじまる――。