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『黒い花束とオレンジのライオン』小俣まお

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 きっとこれからもこの日常が続いていく。私は、勉強だけ出来て、中身の空っぽ の、面白みもなくて、うまくできない、ダメなやつ。私の高校の子は大抵、卒業後、附属の大学にエスカレーター式に入学にしていく。私もきっとそう。附属の大学には芸術系の学部はない。そして私は絵の才能がきっと、ない。だから、絵を描くことは辞めようって思ってる。そう考えると、物凄く苦しい気持ちになる。私は絵への愛情を殺して、皆と同じに出来ないくせに、同じになれるように頑張って、流れるように生きていくんだろう。

 ある日、学校が終わって、乾燥した唇の皮をカリカリ触って、目の前にあった小石を蹴りながら駅に向かって歩いていた。そしたら今日はいつもと違うことが起きた。
「お姉さん、あの。」と、20代半ばくらいの男の人が声をかけてきた。白いシャツに白い肌に短い金髪の小顔の青年だった。私の体はビクッと反応する。「は、はい。」と、声が上ずる私。「えっと、髪の毛、綺麗だなって思って。カットモデルとかパーマモデル募集してて、興味ありませんか。」と続けてきた。私が、どうしようと、黙っていると、「ダメですか?」と彼がまた続けた。さらに黙っていると、困った顔をして、それから私に名刺を渡した。「美容室 ミラージュ 森谷倫太郎」と、書かれていた。「あの、もし良かったらここに連絡ください。」と彼は後頭部をガリガリと掻きながら言って、去っていってしまった。
 私は電車の中で、名刺を眺めたり、鞄にしまったり、また取り出して眺めたりしていた。私にカットモデルなんてもの出来るんだろうか。そして、彼。普段の生活で関わらないような人。綺麗な男の人だった。透き通る白。眩しい金。森谷倫太郎さん。私は名刺の名前を指でなぞった。

 次の休みの日、何を着たらいいかわからなくて、制服を着て、リップクリームを塗って家を出た。美容室ミラージュがどうしても気になったんだ。東京で髪の毛を切 る、という発想が私の中になかった。髪の毛はいつも家の近所で理容室を営んでいるおばあちゃんに切ってもらっている。ミラージュは、学校の最寄り駅から3駅離れた駅を降りて、さらに徒歩5分のところにあった。ミラージュは小さな美容室だった。ドアがガラス張りになっていて、ドアの正面に位置するレジの中に人が立っていた。
…彼だ。そして彼がパソコンから目を上げた瞬間、あっ、とお互い目が合う。私は動けなくなってその場に直立した。すると彼がゆっくり動き出して、ドアを開ける。
「この前の子だよね?」
 顔に血が昇るような感覚。声が出ない。顔から汗が吹き出すのがわかる。彼が後頭部を掻きながら、
「えっと、今、予約ないんだけど、入っていく?」
 と続けた。今日は、本当はミラージュを外から見に行くだけだって思っていたのに、下を向いてうなずいて、ミラージュのなかに足を踏み入れた。壁紙やインテリアがピンクやオレンジや紫など夕焼けの空を連想させるような内装で洗練された空間だっ た。非日常的で不思議な雰囲気。私は通された鏡の前でソワソワしながら座っていると、彼が鏡に映り込んできて、
「こんな髪型にしたい、とか何かありますか。」
 と、声をかけてきた。鏡の中の彼と目が合う。私は慌てて目を逸らした。どうしよう。何も考えてないよ。私がずっと唸っていると、
「えっと、そしたらパーマとかかけてみませんか。」
 と提案された。少し悩んで、でもどうしたらいいか分からなかったから、提案に乗っかることにした。最初にシャンプーをするということで、私は違う部屋に移動した。まとめた髪を濡らして、彼の指が私の長い髪の毛を縫って地肌に触れる。恥ずかしい気もして、それでも力加減が心地よい。ずっと続いたらいいのにって、そう思った。それからトリートメントをして、また席に移動する。私は、髪の毛に薬剤をつけている時、店内に飾られている絵に、鏡越しに目を奪われた。紫とピンクと群青のグラデーションの夕焼け空や、煌めく銀色のピアスに赤色の髪の毛をしている横顔の美しい女性。そして特に目を奪ったのはアンティークの良い額縁に入っている花に囲まれたオレンジ色のライオンだ。

 
「あの、あの絵って…。」 私は、つい彼に話しかける。

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