私、やっぱり学校、好きじゃないな。
うまくやれてないんだと思う。クラスの子と話してたら、顔の可愛さとか、彼氏がいるかどうかとか、最近の流行りが分かっているかとか、そういうので自分の価値が決められてるような気持ちになって、会話についていけなくなっちゃってさ。かといって自分のことを話すのはすごく苦手で。気付いたら完全にひとりぼっちだった。一人でいることは楽ちんで、でも少し寂しい。いつもどうしてもひとりになっていく自分に落胆している。やっぱり、私はどこに行ってもダメなんだ。
私は私立の大学附属の女子高校の1年生。特待生で高額な学費が免除されてる。勉強は昔から得意だった。多分記憶力がすごくいいんだと思う。私、地元も、地元の中学も全然、好きじゃなくって。やっぱり中学でもうまくやれてなかったし、今より も、もっと色々酷かったから、誰も私のことを知らない遠い場所で、一から上手にやっていきたくて、電車で片道 1 時間以上かかる東京のこの学校を選んだんだ。この学校に入って、教科書にマジックで書かれるブスとか死ねとか、椅子の上の画鋲とか、そういう直撃するダメージとはお別れすることが出来たから、ちょっとは良かった な。ありがとう、私の記憶力。
さて、私のとある一日。私は朝 6 時に起床する。ご飯を食べたら、歯を磨いて、化粧水を塗る。唇の皮が剥けそうで気になったから、指でちぎる。右の下唇から赤い血がじわぁっと滲む。制服に着替えて、腰まであるロングヘアを櫛で梳かす。7 時になったら最寄駅に向かう。途中猫に出会ったら、一瞬立ち止まってにゃーと話しかけ る。空き缶が道に落ちてたら蹴っ飛ばしながら歩くし、わざと白線の上しか歩かなかったりする。電車を 2 回乗り換えたら、私の高校に到着。ホームルーム後、授業を受ける。休み時間は大体絵を描いている。勉強はそれほど好きじゃないのに誰よりも得意で、絵は大好きなのに、成績 5 段階中美術はいつも 3 だ。ほら、通りすがりの子が、私の広げるノートがたまたま目に入ったみたいで、怪訝そうな顔をしている。中央に大きな目玉がある黒い花束の絵だ。私の絵は、生々しくて独特で、美しくて毒々しい。私の絵の良さは私だけが分かればいい。私の芸術は、学校の人たちに簡単に、理解されるものでありたくないんだ。私だけのものだから、私は私の絵が好きなんだ。
12時になったら昼休み。お弁当を食べ終えたら、大体絵を描いてるか机に突っ伏して寝てる。眠くないのに、いつも眠いふり。昼休みの後は午後の授業。午後の授業はすぐ終わる。そしたら、放課後。私は帰宅部だからそのまま家に帰る。高校生になりたての頃、隣の席の子に誘われたから、バトミントン部に入ったけど、たった2週間で辞めてしまった。先輩に「髪“は”綺麗だね」って言われて、それを聞いていた1 年生の子が、ぶっ、と吹き出して笑っていて、次の日にはいけなくなっちゃった。ニコニコ笑って対応したり、可愛く怒って見せれば、うまくやって行けたのかもしれない。でもやっぱり、私にはそういうのは全く出来ないんだ。
帰宅するのは、大体5時過ぎ。帰ってからは、勉強か、絵を描くかのどっちか。その後ご飯を食べて、お風呂に入って、長い髪を時間をかけて乾かして、また絵を描 く。色鉛筆で塗った黒い花束はさらに深い黒になる。そして歯を磨いて、11時には寝る。これが私の1日で、高校生活はこんな味気のない毎日の繰り返し。