父親が離婚してからは、ジョウさんをどこか他人じゃないような気持ちで見ていたから。
そんなことを思っていたらジョウさんが、翔ちゃんちょっと行って営業してくるって言ったかと思うと、さっきの女子高校生の輪の中にジョウさんが歩いて入ってゆくところだった。
今まで話に夢中になっていた彼女たちがジョウさんに気づいて、その瞳がちょっとうるっと来ているのを俺は見逃さなかった。
ジョウさんモテるんだよな。俺が無縁のものをたくさんジョウさんは持ってると思った。
ジョウさんは彼女たちの髪のそばで、ジェスチャーをするたびに大きく頷く彼女たち。
ジーンズのお尻のポケットからシルバーの美容院の名刺入れを取り出すと、彼女たちに1枚1枚それを配ってよろしくねって軽く会釈していた。
その後ジョウさんが何か冗談でも言ったらしい。
彼女たちの発する周波数で窓が割れるかと思うぐらい笑い声が車内に響いた。
こっちに戻ってくるときジョウさんはふぅと深く息を吐いているのがわかった。
小さな声で翔ちゃん軽蔑しちゃう? 僕のこと。
って言うから。
しないよ、だってジョウさんの仕事だもん。
ありがとう。生きるって翔ちゃん大変よ。あれで10枚配ったよ。
あれでひとりかふたり来てくれて、つぶやいてくれるとうれしいんだけどね。夏はなんだかお客の出足が悪くってね。
俺はなんとかジョウさんを勇気づけたくて。
大丈夫だよ、いっぱいくるよ。あの子たちみんなくるよって言った。
調子いいんだから、そういう術を翔ちゃんどこで習った?
とかなんとか言ってみたりしてってジョウさんがおどけた。
駅に着くと、まだそこは明るくて。
テトラポットが遠くに見えていた。
じっとしていても寄せては返す波の音が聞こえてる。
音楽なんていらないなってジョウさんがつぶやいた。
なんとなくジョウさんの横顔を見ると、なんとなく所在なげだった。
この表情って親父もよくするなって思いながらみていた。
いつの間にか似てしまったんだろうかって思ったらジョウさんが俺の視線に気づいて
俺の頭をまっすぐ前に向けた。
なになになに?
頭をジョウさんにぐっとつかまれたとき、指のあたりがやさしくて。
翔ちゃんの髪、さらっさらだね。今気づいたよ。あの頃はまだ中学生になったばかりだったから気づかなかった。で、どこのシャンプー使ってんの?
俺はちょっとどぎまぎしながら、俺? あ、シャンプーなんかシークワーサー入りのなんとかっていう親父もおんなじの使ってるよ。
どこの? ヘアサロン系の?
ちがうよ。親父と俺だよ。そんなこじゃれたの使わね!コンビニで売ってたやつだって。
俺はおかしくなって笑った。
世の中の男子達はみんなサロン系のシャンプーを使ってると思っているであろうジョウさんのその世間とのずれが可笑しくなっていた。