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『記憶の糸を切る』秋助

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 高校三年生になった私は、お姉さんの『髪には記憶が宿る』というおとぎ話を信じて、というわけではないけど、ずっと髪を伸ばすようになっていた。腰まで伸びた黒髪は男女共に、初対面の人にでも良い話題作りとなる。もちろん、気味悪がる人もいるけど。
 大抵は「どうして髪を伸ばしてるの?」と聞かれるけど、正直に「記憶を失いたくないから」とは答えられない。おしゃれだ、と。一言で納得してくれるばかりではない。
 休みの日を利用して、夏休みの読書感想文の宿題を片付けようと図書館で本を探す。
 なんとなく髪を触ると花の髪留めがずれているのに気付く。ポーチから手鏡を取り出して確認すると、花の髪留めがところどころ錆び付いていた。お姉さんにもらってから六年あまりが経って、だいぶ傷や汚れが目立ってきてしまった。
 ……お姉さん、か。
 髪を切ってもらうために美容室に行ったら、他の美容師さんが「あの人は辞めてしまった」と教えてくれた。理由はそのとき聞いたはずなのになぜだか思い出せなくて、それでも、美容室でわんわんと泣いたことだけは忘れたくても忘れることができなかった。
「あれ、水瀬じゃん。どうしたのこんなとこで」
 名前を呼ばれて見上げると、小学生のときに好きだった伊坂くんが立っていた。
「どうしたのって失礼じゃない? 私だって本くらい読みますー」
「あー、読書感想文か。俺、苦手なんだよね」
 原稿用紙と『誰でも褒められる! 読書感想文の書き方』を見られて恥ずかしくなる。
 伊坂くんとは別々の中学校になったあと、偶然にも同じ高校に進学した。教室で顔を合わせたときは嬉しい気持ちよりも驚いた気持ちが勝っていた。当時のなんだか暗くて、どこか臆病な感じのする伊坂くんの面影はなくて、いかにも好青年らしい姿だった。
「伊坂くん、小学生のときはあんなに本を読んでたのに苦手なの?」
「読むのとそれを言葉にするのは違うんだって」
「ふーん。そっか」
 小学生のころはまともに顔を見れなかったし、会話をするだけでどきどきしたのに、今となっては見た目も中身も変わった伊坂くんを前に緊張することもなくなった。
「そうだ。面白い遊びがあるんだよ」
「面白い遊び?」
 図書館で本を読むこと以外のなにが面白いというのだろう。
「お互いに相手が好きそうな本を選んで相手に読んでもらって、その本の中でまた、相手が好きそうな一文を教え合うんだよ。知り合いとよくやってる遊びなんだ」
「なんか楽しそうだね」
 とは言っても伊坂くんの好きそうな本が思いつかない。やっぱり『夢十夜』みたいないわゆる純文学の方が好きなんだろうか。伊坂くんは私にどんな本を勧めてくれるのだろう。「例えばこの本とか」
 伊坂くんから手渡されたのは『ブランケット・ブラウンケット・シー』という本だ。
表紙にはブランケットに包まれた茶色い猫の妖精の絵が描かれていた。
しばらく小説を読み進める。それぞれ悩みや罪を持った五人の少年少女の前に猫の妖精が現れて、夢や願いを叶えてあげるがその代償に。という連作短編のようだ。ページを捲っていると、気になる一文が目に留まった。
『「病葉って知ってる?」と、言ったのは彼だったか。おそらく夏ごろの話だ。意味は確か、秋の落葉期を待たずに変色してしまった葉のことだと聞いた。けれど、私はその病葉が好きだった。わくらば。いつか花は枯れてしまうと分かっていても、夢は覚めてしまうと知っていても、私はそういった儚い幻想に惹かれてしまう』

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