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『シャンプー』Chappy

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 田中君がスタイリングの練習台になってくれるということなので、営業時間後の美容室に呼んでシャンプーをした。入口の電機は消え、美容師たちは思い思いに練習と指導をしている。
田中君には
「せっかくならカットしてよ。美容院代浮くじゃん」
と言われたが、
「常連さんをカットモデルにできないよ」
と断った。シャンプーの試供品あげるよと言ったら渋々乗ってくれた。
顔にティッシュを乗せ端をぬらしてくっつけた。シャンプーを出し「お湯加減いかがですか?」と聞くと「激熱です」というふざけた答えが返ってきた。激熱は田中君の中で最上級の誉め言葉だ。
「田中君って昔なんでぐれてたの?」
 顔が見えないのをいいことに聞きづらいことを聞いてみた。
「なんでかな、両親が家出しちゃって誰もいなかったから、せっかくなので好き放題やって、た感じ」
「両親いなくて寂しくなかった?」
「どうかな、昔からいるようでいないからそんなに」
「へぇ」
「でもその時悪いこといっぱいしたから今あんまり悪事に興味ないかな。悪事とは俺にとって味のなくなったガムみたいなもんで今は興味ないね」
「別に尋問してるんじゃないんだよ。あ」
「何?」
「香り選べるんだけど、ローズとペパーミントどっちがいい?」
「じゃあローズで」
「はい」
 私は指先をこまかく動かしシャンプーを泡立てた。バラの豊かな香りが鼻孔をくすぐる。
「すごいいい匂い。気持ちいい」
 田中君はうっとりしながら言った。
「あのさー」
「なんだ?」
「私、田中君のこと好きなんだ、かなり」
「え!」
「一回しか言わないし気持ちはわかっているから何も言わなくていいから」
 私は気持ち強めに頭皮をマッサージしつつ言った。田中君が困っている様子がティッシュ越しでも分かった。
「あんまり能動的に人を好きになることってないから記念にちゃんと伝えてみた」
「どう考えてもちゃんとしたシチュエーションじゃないぜ」
「まぁ、役得ってやつ」
「なにそれ。でも俺も好きだよ。元ヤンだから絶対嫌だろうなと思って言うつもりなかったけど」
「え!」
 私は驚いてシャワーを田中君の顔にかけてしまった。田中君のティッシュがすっかり濡れてしまったので「失礼しました」と言いタオルで顔や首を拭き、きれいにシャンプーを流した。その間、二人とも何も言わなかった。
「はい、シャンプー終わりましたよ。お席にご案内いたします」
 私は笑って田中君の顔を観た。田中君も笑って
「最高のシャンプーだったよ! これで俺たち同じ穴のムジナだな」
 と言った。
「使い方違うけどまぁいいか」
 私は田中君を大きな鏡のある席まで案内した。田中君の濡れた髪からバラの素敵な香りが漂っていた。

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