「絢子さんは自分で親バカトークなんて言ってますけど、お二人の可愛いところいっぱい聞いてます」
「えっ、母は何を……?」
「母の日にくれたプレゼントとか、璃子ちゃんが出掛けにお昼は代わりに作るよって言ってくれたこととか、優しい子ども達で涙でるって。ママ友に話すのは恥ずかしいから二人の自慢話はここでしかできないんですって」
聞いててこちらが恥ずかしくなるような内容に、顔がカッと熱くなる。
「忙しくても絢子さんが欠かさず美容院に来てくれているのも、サラサラロングヘアが大好きだった璃子ちゃんの為なんですよ」
確かに幼稚園の頃、私は夜眠る時も母の髪を離さなかった。あの髪が大好きで憧れていたのだ。
「だけど、二人が待ってるからって、カットが終わるといつもすごいスピードで帰っていかれるんです。絢子さん、もうシンデレラみたいでした」
思い出したように柔らかに笑うこの人に、私はこれまで長いこと嫉妬していた。母に魔法をかけられる美容師さんが羨ましくて、その魔法を解いてしまう自分が後ろめたかった。
「だから、私も可愛い姫と王子が待っている絢子さんのためにカットは随分早くなりました! ほら、どうですか?」
そう言われて顔をあげて驚いた。鏡の向こうに見たことのない自分がいた。もつれたロープみたいだった髪が、繭から紡いでつくられた一本のシルクのようにまとまって、それだけで私は魔法にかかったように綺麗だった。
「ど、どうかな?」
思わずシャンプーから戻った母の方を振り返った。あぁ、お母さんもひょっとしたら美容院からの帰り道はこんな気持ちだったんだろうか。
「めちゃくちゃ可愛い!」
「ですよね!」
はしゃぐ二人の声を聞きながら、私はいつか将来、シンデレラに魔法をかける魔法使いになろうと思った。誰かの幸せの一ページ目を開く川原さんみたいな。