僕は、似たような話を聞いたことがあった。その似たような話をしてくれた人、それは今まさに町川君の隣に座っている舞衣ちゃんからだ。彼女も小学生の時に公園で出会った少年に恋をしたという話をしていた。
――なんたる偶然! 初恋の二人がこの場所で再会を果たしている!
「ちょっと待っててね」
興奮した僕は平然を装い、受付で会計を終えたアシスタントの弥月に少し足早に駆け寄る。つい大声が出そうになるのを抑え、空気を多めに言葉を吐き出していく。
「弥月、あのさ、舞衣ちゃんが前話してた初恋の人の話あったじゃん」
「ああ、小学生の時に出会った男の子ですか。素敵な話ですよね」
「そう。たぶんその初恋の人、今、隣同士で座ってる」
「はい?」
受付にあるパソコンに顔を向けていた弥月がキレイに染まったショートの金髪をサラリと揺らしこちらを向く。
「いや、町川君の初恋の話聞いたんだけど、舞衣ちゃんと全く同じだったんだよ」
「いやいや、お二人共たしか上京してきてますよね? 上京して、同じ美容室に来て、しかも同じ日の同じ時間にお店に来るなんて、どんだけ奇跡重なってるんですか」
笑顔で話しているが、何を言ってるんだこの人はとしっかり声に乗り伝わってくる。
「その奇跡が起きてるかもしれないんだって!」
「違う可能性の方が断然高いですよ」
……確かに。同じ話ではあったが、本当にお互いが初恋の人かどうかは分からない。いざ二人を繋げて全くの他人でしたということになれば、二人に迷惑をかけることになる。
「よし、まず本人にどうしたいか聞いてみよう」
今度は冷静な足取りで町川君の元へ向かう。
「お待たせ」
もう髪は乾かし終えていたため、ドライヤーを片付けつつ切り出していく。
「それでさ、さっきの話だけど、もし今初恋の人に会えるとしたら会いたい?」
「えっ? ああ、まあ、そうですね。でもまだ結構心に残ってるんで、今会ったら緊張で話せるか分からないですけど」
はにかんだ笑顔を浮かべる町川君。なんて純粋な心を持っているのだろう。どうにかして会わせてあげたいが、どうすれば良いのか。
しかし、手を止めるわけにはいかない。舞衣ちゃんは、肩まで伸びた茶色に染めたばかりの真っ直ぐな髪をコテで巻き仕上げを。 町川君は、首の産毛を剃って、ワックスでスタイリングをして完成だ。その短い時間の間で二人が初恋の人であることが確定し、かつ繋げる方法……。
よし、全然分からない。
「ちょっと待っててね」
「えっ? あっ、はい」
間を置かずして中断したことに、目をパチクリとさせているのが見える。しかし、それどころではない。再度、弥月の元に平然ではない足取りで向かう。