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『彼女が髪を』室市雅則

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 私は私で半分くらい食べたところで、卵を一気に口に流し込んでから尋ねた。
「どうかね。結構、髪伸びてたしねえ」
 祖母が答え、母が続いた。
「また来週も来るから、その時、声かけてみてよ」
「ごめんねえ。ありがとう」
 そう言って、祖母は、つゆに浸り切ったかき揚げに初めて口をつけた。

 それから四日後の夜、風呂に入っていると浴室の扉の前に母が来たのが分かった。
「鈴木さん、亡くなったって」
「え?」
「今、お婆ちゃんから電話があって。二日前にたまたま息子さんが来て、お風呂場で亡くなってたの見つけたんだって」
「そうだったんだ」
「明日、お通夜だって。行く?」
「行くよ。場所は?」
「鈴木さんち」
「分かった」
 母が出て行き、私はお湯の中に頭まで浸かってみた。目を開けると視界はぼやけていて、万華鏡の中にいるみたいだった。目が痛くなった。

 鈴木さんのお通夜に向かうとすでに祖母が小さな祭壇の前に置かれた棺の隣で寄り添うに座っていた。いつもよりも小さく見えた。
 私と母は祖母の所に向かった。
「びっくりしたね」
 私が話すと祖母は頷いた。
 そこに一人の男性が現れた。
「今日は、すみません」
 鈴木さんの息子さんらしい。
「この度はご愁傷様でした」
 母がそう言って頭を下げたので私もそれに続いた。
 息子さんも頭を下げた。
「良かったら、顔みてやって下さい。お酒も抜けていてお化粧もしてもらったんで綺麗ですよ」
 ともすれば不謹慎にも捉えられるが、鈴木さんに対しては褒め言葉にも聞こえた。
 息子さんが棺の小窓を開けた。
 透明なパラフィン越しに鈴木さんの顔が見えた。
 ただ寝ているようにしか見えない顔だった。化粧もされ、髪も手入れをされているように見える。
「あの」
 母が息子さんに尋ねた
「髪は切ったのでしょうか?」
「いや、確か軽く整えてもらっただけです」
「良かったら、私に切らせてもらえませんか?」
 何を言い出すのだろう。
「お母さん、ちょっと」
 私が声をかけても母は私の方を見ず、息子さんの方をじっと見ている。
「今ですか?」

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