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『彼女が髪を』室市雅則

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 母は美容師免許を持っているらしい。
 『らしい』というのは、その免許証を見たことがないし、何より、美容室で美容師として働いている姿を見たことがない。だが、母の実家には、当時練習をしていたらしい頭だけのマネキンが残っていて、幼少期の私はそれが怖かったし、母が働いていたという美容室に何度か差し入れを持って立ち寄った記憶がある。美容師だったのは本当だろう。
 私を産むタイミングで仕事を辞めたようなので、ちょっと申し訳なさも感じる。一方で、その後復職をせずに、スーパーの青果コーナーでパートをしていることを鑑みると未練はないのかもしれない。
 私自身は小学六年生になる頃まで母が髪を切ってくれていた。その年齢にはバッチリおしゃれを意識し始めていた。ある時、雑誌で見かけた髪型のリクエストをした所、見事なおかっぱにされてしまって喧嘩になったので、それ以降は、美容室に通うようになった。今となれば、希望した髪型のようにカットを『できない』と言わないのが母らしいと思う。
 現在、母の腕は父方の祖母の髪を切ることと、自身の髪を染めることに使われている。また祖母は、近所のお婆さんにも『うちのお嫁さんが髪を切ることができる』と話す。すすと、そのお婆さんが別のお婆さんに伝えた結果、その周辺のお婆さんの髪も切るようになった。
 交通費程度はもらえるが、お金をとっていない。その代わり、キャベツや大根といった農作物を頂いている。
 母は自分自身の染髪も含めて白髪専用の美容師となっている。

「いつも助かるよ」
 祖母が母に髪を切られながら言った声が、台所で小海老と玉ねぎのかき揚げの下ごしらえをしている私にも聞こえた。祖母はずっと町の美容室に通っていた。しかし、年齢もあり、バスで向かうことが億劫になったらしく、もっぱら母が二ヶ月に一度くらいのペースで髪を切っている。
 玄関の引き戸を開け放ち、椅子を持ってきて即席の美容室が出来上がる。その形でいつも行うから、祖母が髪を切る日はいつも晴れの日だ。約束をしている日が雨となれば延期となる。室内で切ることも出来るだろうが、髪の毛が家の中、しかも自分がきっと掃除の手が届かないところにまで舞ってしまいそうということで、祖母がそれを嫌がっている。だから、文字通りの『青空美容室』となる。
 いつも隣家の増本さんにも声をかけているから、少なくとも一日二人のお婆さんの髪を切る。ちなみに祖父は他界しており、増本さんのおじいさんの髪はすっかりないから、男性陣の出番はない。
「今日、増本さんも良い?」
「もちろん」
 いつも行われるやりとりなのだが、祖母は祖母なりに気を遣っているようだ。
「今日は、鈴木さんも良いかしら」
「ま、まあ」
 それは即答ではなかった。何故なら、母は鈴木さんのことが苦手なのだ。何故なら鈴木さんは基本的に酔っ払っているからである。

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